赤い糸の伝説 | 黄昏に語りて 〜天野滋さんの詩にのせて〜

黄昏に語りて 〜天野滋さんの詩にのせて〜

 
天野滋さんのどこまでも優しく温かい詩をこよなく愛する
人生の秋を迎えた一人の男のつぶやきです。

   人は生まれながら 赤い糸で結ばれている

   そしていつかは その糸をたどって めぐり会う
   しかしその糸は 細くて 弱い

 

 目には見えない赤い糸が人と人とを結びつけるという伝説は世界中にあるようですが、そんな素敵なお話をモチーフにしたこの曲は、名曲ぞろいの大好きなアルバム「シャツのほころび涙のかけら」に収められています。草笛の音をバックにセリフから始まる独特な曲の構成に、当時とても心を引きつけられてレコードが擦りきれるほど聴いたものでした。


   あなたと僕の小指の糸が ほどけないように結びましょ
   明日の朝は汽車に乗るあなた 別れに涙はつきものと
   いやなんだ いやなんだ やさしいあなたを ひたすら待ち
   年をとる悲しい僕に なりそうな気がして

 

 遠く離れたところに行ってしまう恋人との関係がいつまでも保てるのかどうか、相手の気持ちが変わらないと信じるための自分の心の拠り所がすぐにも切れそうなか細い赤い糸しかない、そんな不安な気持ちがこの曲全体を通して綴られていきます。

 

   こわいんだ こわいんだ あなたの写真を見ながら
   あなたが思い出になってゆく そんな気がして

 

 今の時代はどんな時でも、夜中でも、相手が忙しいと思われる時であっても遠慮なく文字で連絡を送ることができますし、相手とお互いの映像を見ながら話すことも簡単にできます。当然今の若者には、遠距離恋愛などという言葉の概念も昔とは全く違ったものに感じられることでしょう。この曲が生まれた頃は恋人と距離が離れてしまえば電話もそう簡単ではなかった時代、写真と手紙を見るだけの日々では、心まで離れてしまうことへの不安は今の比ではなかったのです。

 

   手紙書くだけで心の糸が つながっているだろうか

 

 でも今のようにあらゆることが見えてしまうことで、逆に曲解して生まれる疑念もあるかもしれません。いつわりの情報に安心してしまって起こる悲劇もあることでしょう。この曲は一見不安で壊れそうな思いのみが綴られているように思われますが、私には逆にこれだけ一時も欠かさず相手への思いを抱き続けることこそ今の時代には失われてしまったもののようにも感じられるのです。頼れるものが見えない糸しかないからこそ、心で信じるしかない状況であるからこそ、相手への思いは尽きなく続くのだと感じられるのです。たとえその糸が、細くて、弱くても。