時は1969年。
岡山県成羽中学校の3年A組の良太郎という少年は
幼馴染の3年B組の花子に恋をしたようだ。
小学校5年生の頃までは 太郎と花子は
「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」や「木登り」などして
よく遊んでいたものだった。
小学校の花子含めたグループでも よく太郎は花子に特に親しく話しかけていたものだ。
グループで遊ぶ時は「かごめかごめ」や「フルーツバスケット」などして 花子含め たくさんの女子達とも和気あいあいしていた。
しかし 花子には 特別 好意を持っていたようである。
だけど 中学に上がってから 花子のことを変に意識し始めて 最近 木造校舎の階段で 花子と すれ違っても
「よおっ!」
って 花子に声をかけても
花子は 軽く 会釈をしただけで
すーーっと 去って行く
その繰り返しだった。
でも
「くそぉ
なんなんだろぉ
ワイのこの気持ち〜。
花子と 遊ばなくなったのに
それに反して
花子を廊下とか 階段で 見かけると
やたら 意識してしまうんじゃわ〜
でも 花子 ワイ見たら
なんか 話しかけないでくれオーラを出して
すーっといなくなるしのお。
でも 逆に そういうとこ
好きになっとるような ワイかもなぁ
くぅ〜 なんか
よーわからん。
とにかく また 花子と ゆっくり話したい。」
1969年4月の桜咲く季節に 良太郎は 密かに思いを寄せる 幼馴染の花子に 振り向いてもらいたいがために自転車で 日帰りサイクリングと題して井原にある「嫁入らず観音」まで お参りに行った。
ハァハァハァ
うわっ
苦しかったわーー
めちゃくちゃ遠かったーー
行きだけで えぐい距離じゃったーー
成羽から井原まで軽く30km以上あった。
しかも坂道や 凸凹道も多く
体力に自信のあった 良太郎も ヘトヘトになったようだ。
だが 嫁入らず観音に広がる 桜や小川のせせらぎのBGMが 良太郎に 癒しを与えた。
「なんじゃ このぼっけぇ
素敵な 景色わぁ
疲れも 吹っ飛ぶぞーー」
「桜も綺麗じゃのぉ〜」
「観音様に 花子と仲よーなれるよう
お祈りするぞ」
「とりあえず えげつねえ距離を チャリンコこいできたんで 水飲まないけんのおー
水じゃ 水
みずーー」
良太郎は チョロチョロと流れる浄瑠璃霊水を 横に置いてあった 柄杓を持って
犬のように ガバガバ飲んだ。
「うっひゃあーー
冷てぇのお
でも
うめえなあ。
なんぼでも 飲めそうじゃ。
あーー 生き返ったーー」
「奥の院まで行かんでも
ぼっけえでけえ
観音様に 祈りを捧げるだけで
ワイは満足じゃ」
高さ約12mの観音様に 良太郎は 花子と良縁が結ばれるように祈りを捧げた。
それから二週間が経過した。
相変わらず 花子と すれ違うことはあるけど
花子は まるで 良太郎を避けてるかのように
良太郎が 花子……と 声をかけると
風のように いなくなった。
そんな感じで 二週間が経過した。
ついに太郎は階段で すれ違いざまに花子に 話しかけた。
「あのさあ
花子
放課後 吹屋にある
喫茶店にでも行かない
話があるんだ」
と 言った。
……………
…………
少し膠着状態が続く2人
「ごめん………
実は 帰ってから
大事な用事があるんよ
じゃけん
だめじゃ せっかくの誘いなのに
悪りぃのお」
花子は 困ったような 嬉しいような
複雑な表情を浮かべ
ギシギシと
木造校舎を かけて 逃げるように
良太郎の眼前から消えた。
はぁあ〜
井原の観音様に お参りに行ったのになぁ〜
あの苦労は
なんじゃったんじゃ
と良太郎は ため息混じりにつぶやいた。
その時 廊下で
隣のクラスの女子達が 教室に入って行った花子の後ろ姿を見て
なにやら 花子について語っていたのを
小耳に挟んだ良太郎。
「あのさあ 6月16日の成羽町民会館である 音楽祭に 花子が出るんだって」
「そおよーたのーー 花子は ピアノを色々弾けるけー 5曲ほどメドレーで 演奏するらしいのお」
(花子が6月の音楽祭で演奏?
ワイ 避けられてるかもしれんけど
行かないより 行くっきゃないっしょ!
いや、絶対いくぞ
行って花子を 応援したいんじゃ)
キーンコーン
カーーンコーン
チャイムの音が鳴り 廊下で ワイワイ騒いでいた
女子らもいなくなったのを確認して
最後に しれっと
良太郎もA組の教室に戻った。
そして 6月の16日 成羽町民会館で
何組かの音楽パフォーマンスを見ることができた。
トリは 花子の 「花子の中の大好きな曲メドレー」を花子は演奏した。
「ドレミの歌」から はじまり「ドリフのズンドコ節」 さらに「夜明けのスキャット」
特に 夜明けのスキャットでは ルーーールルルルー
ルーーールルルルー
の 出だし部分で
やたら良太郎と視線があった花子。
そのあとは「スカボローフェア」を弾いて
最後に 「君といつまでも」を弾き語る花子。
二人の〜 心は〜 変わらない いつまでも〜
二人の〜想いは〜 変わらない いつまでも〜
の部分を花子が歌った時 明らかに 良太郎は視線を感じた。
(花子の演奏 すげかった。
いや、それより なんか ワイと 重要な部分で
視線を感じた。
これは ワイの勘違いじゃねえと思う。
なんか 告白するなら 今じゃ。
千載一遇のチャンスかもしれん)
そんな淡い期待を抱いた 良太郎は
町民会館から出てくる 花子を外で待ち伏せた。
町民会館の外の道は小高いところにあり
そこには一本の大きな 柿の木が植えられてあった。
柿の木の下で
良太郎は ソワソワしていた。
まだか
まだか
遅いなあ
花子は
なんだか 落ち着かない様子で良太郎は 花子が出てくるのを待っていた。
演奏会が終わり
全てのスケジュールが終わり 町民会館から
人が どんどん出ていってるのを目の当たりにした。
そして 花子が出てきた。
「おーーーい 花子ーー
今日 とっても素敵な演奏を ありがとーー」
小高いところにある 柿の木の場所は
ちょっと町民会館から離れているので 良太郎は
大きな声で 花子の名前を叫んだ。
「あっ 良太郎くん 」
花子は 小走りで良太郎のいる 柿の木の方に向かった。
そして 柿の木の下で待つ良太郎に向かって花子は言った。
「もしかして……
ウチの気持ち……
ずっとずっと 言えなくて言えなくて……
どさくさに紛れて
歌ってる時に やらかしてしもうたの
気づいてたんかい?」
なにやら めちゃくちゃたどたどしい口調で
花子が良太郎を見るや否や言ってきた。
「それって 花子も もしかすると
ワイのこと 意識し過ぎていて
でも 言えなくて あえて
そっけなくしてたって感じかのう?」
やたら 的を得た質問をした良太郎。
「そうよ。
君のことを意識してたからこそ
なんか 今日まで
君と ゆっくり話そうとして試みても 恥ずかしくて
できんかったんじゃ」と花子は 顔を赤らめながら言った。
「ワイなぁ 昔から 花子のことが好きだったんじゃ。
今日の 素晴らしい演奏もよかったよ。
そして演奏の時に あえて ワイの方を意識した
歌詞を歌ってくれてありがとう。」
「良太郎くんが もし ウチの演奏を聴きにきてくれんかったら 君への想いが詰まった歌が 無駄になるとこじゃったわ。
来てくれてありがとう。
でも よー ウチが 演奏することを 知ったったんじゃなあ? すげぇなあ君。」
「えへへへへ〜
ワイは 神様のお告げを受けたんじゃ〜」
ナハハハ
と 思わず 声をあげて笑う花子。
「それより 花子! こんな唐突に言うのもおこがましいんじゃけど
ワイと付き合ってくれ!
ワイ 花子をずーっとずーっと愛したい。
ほら 演奏で 花子も言うとったがぁ。
君といつまでも〜の 歌詞で 心は〜変わらない〜いつまでも〜って」
「そう 君が来てくれると信じて 君といつまでもをウチはチョイスしとったんよ。
ウチ
ずっと君といつまでも一緒にいたい。
だから 喜んでこれから 君と付き合っていきます。
改めてよろしくね。良太郎くん。」
そして良太郎と花子は お互いなくてはならない存在として
相思相愛になった。
そして月日は流れた。
1972年 二人は高校3年生になった。
良太郎は父のカメラマンとしての活動を尊敬していたので カメラマンになるため71年の末頃まで 父の元で撮影の修行を積んでいた。
しかし72年の正月に良太郎の父親はベトナムの紛争でのカメラマンとしての仕事オファーを受けた。
ところが その時から 父親から 音沙汰無しとなっていた。
連絡もなく 心を病んでた良太郎に花子は一つの提案をしてみた。
「くよくよしてちゃあいかんぜよ。
良太郎くん 7月あたまの土曜日にバスで鳥取県米子にある 金田川蛍の里に行こうよ。
そこは景色もいいし 夜は蛍の乱舞も観れるかもしれんよ。
ちいたあ そういうとこで 身も心もリフレッシュせにゃああかんなあ」
「ありがとう。 どんな時でも 花子がワイを支えていてくれるから ワイは強く生きられるよ。」
「相思相愛で こうなったウチらなんじゃけん。
相手の喜ぶことを 常に考えること
それ 大切じゃと思うで」
と言って花子は微笑んだ。
7月あたまの土曜日。
金田川周辺を 夕方頃 散策していた二人。
夏日で蒸し暑かったのに
急に積乱雲が出てきて
肌寒い風が吹いてきた。
ゴロゴロ
ゴロゴロ
と雷が鳴って⚡️きた。
ピカッと暗くなった空に稲妻がほとばしる
きゃっ と思わず 良太郎に軽く抱きつく花子
大丈夫か 花子。と 花子の頭を撫でる良太郎。
「こりゃ 一雨きそうじゃなあ」
「良太郎くん 傘持ってきてる?」
「いや、ワイ 持ってねえよ」
「困ったなあ。雨宿りできそうなところ どっかあったかなぁ」
キョロキョロあたりを見回す花子。
「あと数百メートル先に 休憩所が あったはずじゃよ。地図には そう出とるで」
良太郎がカバンから地図を出した途端。
パラパラと降ってた 雨が 一気に強まった。
「やばい
ウチら ずぶ濡れになっちゃう」
大丈夫! ワイに 任せなさい。
なんと良太郎は 大きな風呂敷をカバンから
取り出して
花子にも 少し持たせて
こう言った。
「これで 雨も しのげるだろ?
さあ 走るぞ。
あと500mほどね。
」
雨の中だけど 雨に濡れても 憂鬱なんかじゃない
むしろ君といると楽しいなぁ
そう言いながら 良太郎は「明日に向かって撃て!」の主題歌 雨に濡れても を 口ずさみ出した。
それにつられて花子も 歌い出した。
憂鬱なんかじゃなく
楽しい気持ちで
結局1km先まで 歩き続けた二人(ようやく休憩所を発見したのだった)
「雨はある程度防げたよーーありがとう良太郎。」
と
多少は 雨に濡れた頭や服の 雨滴をはらいながら花子は言った。
「それよか
なんか 急に暗くなってない?」
と良太郎は 空を指さす。
「ほんとだねぇ。」
「雨も ここにたどり着いた途端に止んじゃうなんて」
と 続け様に笑顔で言う花子。
「ちょうど蛍が出てくる時間じゃないかなあ」と良太郎は腕時計に視線を合わせた。
「だね〜っ
……って
あれ?
なんなの
あの光は?!
綺麗〜
良太郎ー
ついてきてーー」
慌てて走る
はしゃぐ花子について行く良太郎。
そこは
多くの蛍が乱舞してる世界だった。
黄色からオレンジ色に輝く蛍達。
それに反射する
川の水面は まるで童話の世界のように
黄色とオレンジが混じった光で
光のアートのようだった。
「綺麗〜
こんな素晴らしい時間に ここへ来れるなんて
ウチら めちゃくちゃ幸せ」
飛んでくる
蛍を掌に乗せながら花子は言った。
「憂鬱になりそうな時も 君のチョイスで
ここへワイを運んでくれて
ありがとう。
そして この景色 ずーーっと見ていたいなあ
花子」
さらに 夜空の黄色く輝く星達が広がっていた。
満月が また 怪しいまでに 大きな まんまるに見えた。
良太郎と花子は 思わず 「蘇州夜曲」をハモっていた。
君がみむねに だかれてきくわ
夢の舟唄 鳥の歌
水の蘇州の花散る春を〜
あすのゆくえなどしらねども
こよい映した二人の姿
消えてくれるな いつまでもーー
二人は永遠に 消えないで
一緒と 思われていたが…………
それから約2年が経過したある日の事……
良太郎は 消息をたっていた父親の話を
ベトナムの知り合いから手紙で聞かされた。
良太郎の父親はBARで働いているらしい。
しかし他人のそら似かもしれない。
良太郎は それを確かめるために今、ベトナム紛争中のベトナムに危険を覚悟で行くことに決めたのだった。
なので 良太郎はベトナムに行く前の最終日に(三原に花子を連れて旅行していたのだった)
良太郎は「最後になるかもしれない。
だから 今日だけは 君に話して
おきたい」と三原のマキシムという喫茶店で つぶやいた。
続く












