潰れそうな喫茶店〜後編〜マスターの器 | 全国No. 1短編小説家ー中国地方の観光&グルメレポ

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るるぶとかタウン情報おかやま、winkなどに載ってるスポットばかりアップしてます。メディア記載の場所に実体験したレポかな(笑)

それから14日間後に田中勇は

再び「ショウワヤ」にやってきた。


先代の味とレシピを 頑なに守り続けているマスターのケンは もちろん田中の言う 客を満足させるような新メニューは発明してない。


その日も機嫌悪そうに田中は ショウワへ偉ぶりながら入って行った。

「いらっしゃいませ………」
語尾で 声が小さくなる美月。

「おい!マスターよぉ。
おめえさんに二週間も猶予を与えた。
当然 新メニューなんざ できてることだろう?」

「…………」
ケンは 何か言おうとしたが 何も言わず首を振った。

「チッ!」と舌打ちして メニューとマスターを交互に睨む田中。

その時、ケンはショウワヤの壁の あまり目立たないところに貼ってある 「スペシャルメニュー」の紙を
大ぶりな手振りで 指差した。

「おいっ!今の今まで その貼り紙に気づかなかったぜ。
ちったあ 目立つところに貼れや!」

「はい」
とだけ 小さく言ったケン。

(スペシャルメニュー 3回目以上ご来店のお客様に
特製ウインナーコーヒーを400円とスペシャルなお値段で提供致します。)と貼り紙に小さく貼ってあるようだ。

「あの郷愁帯びた香りと味のコーヒー……
しかも それがスペシャルバージョンで
400円……
こ、これは……」

文句を言いたいが 貼り紙の文字と前回来店した時のコーヒーの味を思い出した 田中は
文句も言えないような感じに見えた。


その時 マスターのケンは
もう 彼のオーダーを受ける時間も与えず
コーヒーをサイフォン式の器具を使って彼のために淹れていた。

しかも カウンターの奥の田中のいる席まで 
漂ってくる
この世のものとは思えないほど
良い香りがする生クリームを
たっぷり サイフォンで淹れたコーヒーの上に乗っけてるようだ。

田中は 二の句も言えず
あたふたしている。

(や、ヤバイ  オレは 今日  新メニューを作れていないマスターに罵倒するために
ここにきたのでは  なかったのか……
しかし
なぜ

なぜ?!
このマンダリンを嗅いでるような 誘われる香りは……
コーヒーからの香りなのか??
さらに生クリームの甘くてそそる香りはイランイランのようにも感じれる。
そして おそらくチョコクリームは以前の大パフェの進化版か!?
チュペローズ  のようなバラのような香りにも思える。

おかしい  チョコクリームはKALDIのはずだ。

おそらく それぞれの臭いが 融合して
チュペローズ  のような 気を全てもっていかれそうな
気持ちにさせてるのだろう……

しかし  しかし
オレは負けんぞ。 マスターに文句を言わねば)


心の中で葛藤が生じている田中にマスターは 思わぬ一言を言った。

「常連さん特別メニューの 特製ウインナーコーヒーを
今回は あなただけに特別に無料で提供いたします!」

「えっ!?な、なんだって」

思わず 田中は動きが止まった。

「田中さん。 あなたから 何かしら同業者のような香りがしております。
そして あなたが私どもに 意地悪な事を言うのも ほんとは辛かったんでしょう?

何か 一人でいろいろ抱えてて
見ていて私は 心が痛かった。

だから 今日は無料で スペシャルコーヒーを提供しますのでなんでも 私に ぶちまけてください。気兼ねなく。」
ケンは あれだけ悪態つきまくった田中に 天使のような微笑みを浮かべた。


そして 美月は黙って 特製ウインナーコーヒーを田中の元に運んだ。







田中は サングラスの中で涙が 溢れそうになった。
だが
なんとか コーヒーを飲んで その味の感想を
言って 咄嗟にごまかした。

「あぁ〜 うめえ これは 今まで飲んだ どこのコーヒーよりも 一番美味しい!
ちょっと前に私が経営していたカフェのアレンジコーヒーの比じゃないよ。」

田中は思わず 元カフェ経営者であったことを
涙のごまかし理由に コーヒーの味の感想を 述べてた時に ホロリと吐いた。

「やはり あなたは 同業者の方でしたか。」
ケンは 穏やかな口調で 田中に微笑んだ。

ケルティックウーマンの「You Raise Me up」が その時 ちょうど流れていたが
それが さらに店内の BGMと田中の 郷愁帯びた心境とマッチしていたようだ。

田中は静かに 涙声で語り出した。

「私はなぁ。 
ちょっと前まで 大阪の千日前でカフェのオーナーをやってた。
千日前も丸福珈琲とかアラビヤコーヒーなどの老舗の喫茶店が根強い人気を誇っているよね?

私のところのカフェは それらに負けないように カフェでライブを開いたり 
ヒーリングイベントを開いたり 
占い師を招いたり 新たな商法で 成功を収めていた。


だが ある日……
あれは大雨の中のライブの後だった……


カフェライブ後に華のある某有名アーティストさん。
30代で女優業も忙しいアーティストさんが
うちで 歌った後に ベロンベロンになるまで飲んじゃってね、、、。


マネージャーを先に帰らせ オレは その方の愚痴を 飲みながら 聞いて
力になろうとしていた。

いつのまにか深夜になって 
その女優さんを タクシーで送り届けようとした。

しかし その日に限ってタクシーが 掴まらない。

とりあえず 千日前のネットカフェで泊まりたい言われるのだが、オレはそれは 許せなかった。

駆け出しとは言え女優さんなので
ホテルに泊まりなさいと言って
難波の方のホテルを探していた。

ようやくホテルを見つけオレは 家路に着いた。


しかし何日か後に オレが その女優さんを連れてホテル前に いるところをフライデーに撮られていたのだ……


「某カフェオーナー が あの女優を犯した!?」

とな……


人助けのために行ったことが逆に こんなことになってしまうなんて!
もう何が何だか私には
訳が分からなくなった。

その後 客足は途絶え。

従業員も変なオレの噂のせいで辞めていき。
やむなく最近 オレのカフェは閉業に追い込まれた……」

長らく語り終えると 田中は

泣き崩れた。



それを聞いていた美月も たまらない気持ちになって
ポケットから ハンカチを取り出して涙を拭った。

ケンは 親身になって語り終えた田中に
こう言った。


「事情を話してくれてありがとうございました。
人間誰しも悪い人はいません。

一つの誤解から大きな仲違いや 大きな傷を負うことはあります。

でも こうして腹を割って話せば
わかることって多いんですよ。
これが私が若い頃から親の後を継いで ここをやってる経験。
だから じっくり話をして 相手を理解しようとすることは大切なのです。」




うううううわぁああ
オレは女房 子供もいるのに
この歳で働き口も
なくなったし
やけになってたんだぁああぁ




サングラスを外して田中は大きな声を出して
泣いた。

そして
ケンは 田中に歩み寄った。



こうしてケンは田中を「ショウワヤ」の従業員として
雇った。


田中の かつて千日前のメジャーカフェに負けなかったノウハウやテクニックで
ショウワヤのメニューも内装も
全て
リニューアルした。

しかも
それが良い意味でリニューアルできたのだ。


かつてのショウワヤでは
考えられないほど
客足が伸びていった。







新たなメニューや新たな企画で
「ショウワヤ」は
レトロな雰囲気を保ちつつ
令和なテイストの お客様をたくさん集めた。




そして ある忙しい閉店間際の営業終了後


後片付けをしている田中に ケンは 言った。


「今日も お疲れ様でした。」

「マスター 今日も おつかれっす!」


「田中さん……」
意味深に田中に 囁くケン。

「なに?」

田中は 怪訝な表情でケンを見た。

田中さん
君に会えて良かった。
嬉しいです。

ありがとう

そして
これからもショウワヤを盛り上げていきましょう。

君に会えて私はいま とっても 幸せです。


マスターの言葉に

田中は大粒の涙を浮かべた。


感じの悪い客だと否定せず 田中を受け入れ理解しようとしたケンマスターの器は ショウワヤを一気に発展させる起爆剤になるなんて
人生何がどうなるか わからないものだ。



劇終