Q:日本が失ってしまったものはなんだと思いますか?
ーーそうですね。
金で買えないものを全部金に変えてしまったという感じですかね。
もちろん、あの敗戦直後の皆んなお腹の空いた状態で、皆頑張ってきたというのは分かりますけれども、
そこに行き着いたかというと、これで幸せだったかどうかということは、私は疑問に思うことがありますね。(…中略)
日本全体がホワイトカラーになってしまったという感じがするんですね。(…中略)
国を挙げてホワイトカラーになってしまったという感じがしてならないんですね。
汗を流してするような仕事。お百姓さんのするような仕事だとか、あるいは、港で荷担ぎをして実際に汗を流すような仕事をする人たち、それから、色んな職人たち。
自分の手で自分の体を使って何かを得るという仕事があまりに少なくなってきている。
Q:ホワイトカラーばかりになったら、日本はどんな国になってしまうんでしょうか?
ーーまあ、長続きしないんじゃないかと。
という意味は、決してもうダメだという意味ではなくて。
しかし、ホワイトカラーがなくなっても人間は生きられるんだよというふうに思いますね。(笑)
そう言いたいですね。
一度ダメになってしまって…という話をよく聞きますけど、それは無責任に言っているわけではなくて、今の状態は、そう長続きしないだろう、あれだけお金があり、食べ物も自分で働かずに輸入して食える。
まあ輸入業者やお店の人だとかは、それなりの辛さはあるでしょうけども、まあ、全体としてはですね、自分の食べ物の半分も自分たちで作れないような社会。
これは、そう長続きしないんじゃないかと。
しかし、敗戦直後のことを考えると、あのとき100万人の餓死者がでると言われたのに、そんなに死んだ人がいなかったというのは、あの頃、日本の人口の7割が農民だったんですね。
それで、いわば自給自足で生き延びたという実体験を、ちょっと年増の人は持ってますから。
まあ、そう怖がらなくてもいいからと言いたいわけですね。
無いものを守ろうとしている、という気がしてならないんですね。
Q:先生は、宮沢賢治の『注文の多い料理店』と現代日本を重ねあわせて見ているようですが?
ーーそうですね。
立派な建物があって、そして、注文が多くて、そして、その中に入ってしまえば、そこしか進みようがないという意味では、まさに一つの予言だったと思いますね。
しかし、気づいてみると、それは夢、幻だったと。
最後は幻が消えて、最後は、「だんな〜、だんな〜」と呼ぶ漁師の声でハッと気がづいて、団子を食べて帰ったと。(笑)
そういう風なオチになるんじゃなかろうかなと私は思いますけどね。
結局、無いものを霊験あらたかに守ろうとしていたということなんでしょうかね。
(…中略)
Q:先生は、グローバリズムというものをどのように思いますか?
ーー前は、インターナショナリズムという言葉がありましたが、それとはちょっとちがうんですね。
グローバルスタンダードだとか、均一性を要求する。
ちょうど工場でできる部品のような人間を生産することと繋がってくるんじゃないかなと思いますね。
それを考えますと、いかに野暮ったく見えても、身近な人を地縁血縁を大事にして、そして、泥まみれになりながら汗をかいて働いている人たち、これは対極にある世界だと思う。
人間というのは、色んな人があって当然なわけで、それを一つのものに括ってしまうと、これは一つの危険性があると思いますね。
ちょうど戦争中、日本が大東亜共栄圏というのを唱えて、東南アジア各地に日本的な画一性を押し付けようとした。
しかし、それでもまだマシな方で、いま進行しているグローバリズムというのは世界中を巻き込んで、かつ文化まで変えてしまうという、非常にステレオタイプな非人間的なものを感じますね。
中村哲医師 追悼会
『注文の多い料理店』宮沢賢治 NHK 朗読:今井 朋彦
青空文庫 『注文の多い料理店』 宮沢賢治
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宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」
Q:先生の生き方は、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』に似ているように見えますが、先生ご自身はそう思われますか?
ーー『セロ弾きのゴーシュ』でしょう?、ええ、あの、いま読んでもなんか自分によく似てるんですね。
なんか、精進しよう!とは思うけど、なんか出てきて、どうも思ったことができない。昆虫採集に熱を入れようとしても、なにか出来事があってそれに関わらざるを得ない。やっとこれで一息ついたと思ったら、またなんか出てきてですね。ずーっと、その続きだったですが、まあ、それはそれで、もうこの年になると、仕方がなかったんじゃないかと。
それで、けっこう自分も辛い思いもありましたけれども、楽しい思いもしたし、ある程度の精進はあったんだから、それで、ええんじゃないかという気がして、ああいう話を聞くと、ホッとするわけですね。
だいたい自分の人生というのは、自分の思った通りにならないと(笑)まあ、思っても差し支えないないんじゃないですかね。
思った通りにして失敗した人というのは、たくさんいますので。これはこれで、神が決められたことというふうに受け入れざるを得ないですね。