②『千と千尋の神隠し』の中に息づく『もののけ姫』の記憶 ~一度あったことは忘れないもんさ | ☆Dancing the Dream ☆

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『一度あったことは忘れないもんさ、 思い出せないだけで』



エミシの琥珀の山の川の神・ハク

ハク・・
本名を、「にぎはやみ・こはくぬし」と言う。 
「琥珀川」という小川を司る神。白竜。
しかしその川の場所にはマンションが建って住処が失われた。
ある日忽然と油屋に「魔法使いになりたい」とやってきて
湯婆婆の弟子となり、湯屋の帳場を預かっている。


「にぎはやみ・こはくぬし」・・このハクの本名は、
日本書紀に登場する饒速日命(ニギハヤヒ・ノミコト)に
由来する名であろうと推測されます。

すなわち、「にぎはやみ・こはくぬし」とは、
「饒速水・琥珀主」と書き、

饒速日命=太陽・火 に対して、
ハクの名は、饒速水=川・水。
"流れの速い豊かな川の神"を意味する。

饒速日命(ニギハヤヒノミコト)とは、
エミシ(蝦夷)の長脛彦(ナガスネヒコ)が奉じる神、
エミシの太陽・火の神なのです。

長脛彦・ナガスネヒコは、
日本の東北部の先住民族・エミシの族の長で、
ヤマト民族とは異なる風貌をしており、
その名は、脛が長く、その脛に脚絆を巻き、
山を自由自在に駆け巡ることができ、
堂々と大きな体躯をしていたことを象徴しています。


エミシの王子・アシタカ

さて、
『千と千尋の神隠し』の前作である
『もののけ姫』のアシタカも、
エミシの一族の若き長という設定でした。

アシタカの本名アシタカヒコという名を
「脚高彦」と書くと想定するならば、
「長脛彦」ナガスネヒコの名の意味に
すんなりと連なるというわけです。

そして、
饒速日命が、エミシの太陽・火の神ならば、
ハクこと、「饒速水琥珀主」もまた、
「エミシの川の神」であるということです。

つまり・・
ハクは、アシタカと同じ
「エミシ」の国の川の神。


また、
ハクはその名にもあるように、
「琥珀川の主」ということですが、
「琥珀川」という川は、
実際には、存在しません。

しかし、
琥珀」といえば、
岩手県の"久慈琥珀"が最も有名です。
つまり、陸奥国・エミシには、
最高級の琥珀の国内最大の産地が存在するのです。

久慈川の支流、長内川上流に、
琥珀の採掘坑道があり、
その側に鉱山にはつきものの
「山神様」を祀る"琥珀神社"があります。
この神社の傍らを流れる上流の小さな川を
「琥珀川」と呼んでもおかしくはないでしょう。


久慈川の上流の「琥珀神社」のそばに久慈琥珀博物館がある。
琥珀とは太古の昔、森の木々から流れ落ちた樹液が固まったもの。


久慈琥珀は、中生代白亜紀後期という
まさに恐竜時代に属するもので、
太古の失われた世界を包み込んだ
いわば”タイムカプセル”ともいえる貴重な宝です。

そして、久慈では、縄文時代から平安時代の遺跡から
多くの琥珀が出土し、
竪穴式住居内からは琥珀の玉の欠片が発見され、
そこは、琥珀玉工房を含む集落であったことが
明らかになっています。
また、奈良県の平城京跡、藤原京跡等から
久慈産の琥珀が出土していることから、
交易があったことも推測されています。

ハクの名の、「琥珀主」が、
天然樹脂の化石(宝石)を表しているとするならば、
いったい、これは、どういう意味をもつのでしょう?



琥珀は、
太古の歴史をその内部に閉じ込め、地下深く眠っている
”タイムカプセル”のような記憶装置。

人も、琥珀のように、
思い出せなくても、記憶は、
どこかに留めているのかもしれません。


『千と千尋の神隠し』の登場人物たちや、宮崎監督は、
記憶について、次のようなことを言っています。


銭婆  「一度あったことは忘れないもんさ 思い出せないだけで」

ハク 「自分の名前を忘れてしまうと帰れなくなってしまう」

ハク 「いつもは千でいて、本当の名前はしっかり隠しておくんだよ」

     ※ハクは、自分の本当の名前を忘れてしまい、思い出せなくなっていたが、
        千尋がハクに助けられた川の名前を思い出したことで、
        ハクは自分の名前を取り戻すことができた。


宮崎監督 「銭婆の "一度あったことは忘れないもんさ" という言葉の通り、
人間の記憶って、思い出せないだけでどこかに残っているものだと思うのです。(略)突然、普段全然思い出せないような子供の時の体験を思い出すんです。不思議ですよね。(略)もしかしたら僕の中にあるもう少し前の記憶や、そのさらに前のDNAか何かが、その地下水槽に惹かれたのかもしれない。人間一人一人の体験とか記憶を形成しているものって、自分の記憶にあるものと、思い出せないけれど忘れていないもの、さらにその奥に埋もれていて深い、土台の石になっているような何かがあって、DNAの記憶やなんやらも含めて、先っぽのほうはそういうよくわからない、どこか得体のしれないところからつながっているんじゃないかって思えるんです。このところ異常気象が続いているから、樹たちが一生懸命昔の記憶をまさぐっている気がする。もっと暑かった時代を思い出そうとしている。」
                    ――「千と千尋の神隠しロマンアルバム」宮崎駿インタビュー


まさに、ハクは、「琥珀主」!
琥珀の玉を抱く白竜なのです。

彼の故郷、東北のエミシの山間の川から、
海の果ての琉球王国の辻の遊郭
湯屋「油屋」に、
なぜ、どのようにしてやって来たのか?

久しく存在した「アイヌ沖縄同系説」を裏付ける成果として、
ゲノム(全遺伝情報)解析によって、
アイヌ(北海道)と琉球(沖縄県)が
同じ縄文人タイプであるいうことが、
明らかにされています。

ハクは、
たな引く白雲のように、エミシの琥珀の玉を抱いて、
空飛ぶ白竜となり、ヤマトとの和平を願い、
琥珀の交易に務めたのかもしれません。
けれども、ヤマトの武力による侵略によって、
エミシの土地、生活様式、言葉、文化を奪われることを
止めることができず、
ヒイ様の鹿ト占いが呼び出すようなエミシを守る神々の魔法も脅かされ、
ことごとく、故郷エミシの記憶が消し去られてしまうことに、
危機感を感じていたことでしょう。
そこで、彼は、同じ記憶をもつ遠く海の果ての琉球へと旅立ち、
湯婆婆(琉球のシャーマン・ユタ)の魔法の力を
学ぼうとしたのかもしれません。

けれども、強欲な湯婆婆に名を奪われ、
支配されてしまうのです。

ハクは、琥珀の中に眠っているはずの記憶、
自分自身の本当の名を
思い出すことができなかったのです。
しかしついに、
千尋と出会い、千尋が、幼い頃、
ハクに助けられたことを思い出してくれたことによって、
自分の本当の名を思い出すことができました。

*******

さて、一方、
現代日本の普通の少女、千尋

戦後世代・高度成長期の申し子のような
大量消費に何の疑問も持たない両親の元に育ち、
日本の本当の歴史が隠された教育を受け、
人工物に覆われて生活し、
自然な感覚、本能を遮断され、
彼女もまた、ある種の記憶喪失に陥ることを余儀なくされた
日本の一般的な子供の一人です。

しかし、
千尋は、湯婆婆に証書に名前を署名するように言われた時、

なぜか、「荻野千尋」の「荻」という字の
獣偏の右の「火」を「」と書いてしまうのです。



これについては、劇中ではなんの説明もなく、
なんの暗示もありません。

なぜ、千尋は、「犬」という字を書いてしまったのでしょう?
自分の名前を間違えるとは、どうしたことでしょう?

そのヒントは、
上に読み解いてきた、ハクの「琥珀主」の名がもつ意味や、
また、銭婆の 「一度あったことは忘れないもんさ 思い出せないだけで」
宮崎監督の「DNAの記憶やなんやら・・どこか得体のしれないところから
つながっているんじゃないかって思えるんです。」
・・等々の言葉にあるでしょう。

千尋は、
自分は今、掟が定められた世界にいる
すなわち、働かない者は、消されてしまう
という事実を突きつけられ、
初めて「生きよう!」とする本能に目覚めたのです。

同時に、この瞬間に、
千尋の無意識の領域の記憶の扉が、
開いたのでしょう。

「犬の娘であった自分」という
得体の知れない記憶が。

つまり、
千尋の中には、「犬神の娘・サン」の
記憶が眠っていた
のです。

たとえ、今は「豚の娘」であろうとも・・あせる

サンは、温暖湿潤な西日本の
照葉樹林に覆われた森に住む
「犬神(ニホンオオカミ)モロ」に育てられ、
森を破壊するエボシ御前が運営するタタラ集団
闘いを挑んだもののけの姫でした。

      
琉球の遊郭の湯女となった      西国の森のもののけ姫・サン
現代の少女・千尋
    

アシタカに救われたサンは、
アシタカと恋をし、将来を誓い合いました。

そして、
同じく、
ハクに救われた千尋は、
ハクと恋をし、再び会うことを約束して
後ろを振り向かず、
異界を去るのでした。

エミシの王子・アシタカと、
西国の森のもののけ姫・サン。

エミシの琥珀の山の川の神・ハクと、
琉球の遊郭の湯女になった現代の少女・千尋。

文化の異なる
東の少年と、西の少女が出会い、
恋をする・・時を越えて繰り返し繰り返し「いつも何度でも」





呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも心躍る 夢を見たい

かなしみは 数え切れないけれど
その向こうできっと あなたに会える・・