認知症予防のために運動が大切。
これはもう、多くの方がご存知だと思います。
「毎日歩いています」
という患者さんも多いですし、
高齢者の健康づくりと言えば、まずウォーキングを思い浮かべる方も多いでしょう。
ところが今回、日本人の高齢者を対象にした研究で、とても興味深い結果が報告されました。
なんと、
認知症の発症リスクが有意に低かったのは「筋トレ」と「ゲートボール」だった
というのです。
しかもウォーキングでは、今回の研究では統計学的に有意な差が認められませんでした。
ちょっと意外ではありませんか?
日本人5,074人を約4年間追跡
今回の研究は、日本体育大学や筑波大学の研究者らが行った前向き観察研究です。
対象となったのは、地域で暮らす高齢者5,074人。
2017年から2021年まで、中央値4年間追跡されました。
その間に認知症を発症した人は、
430人、全体の8.5%
でした。
研究では17種類の運動について調べ、その中でも参加者が150人以上いた
・体操
・ウォーキング
・ゲートボール
・ゴルフ
・筋力トレーニング
の5種類について、運動をしていない人と認知症発症リスクを比較しています。
一番リスクが低かったのは「筋トレ」
最も印象的だったのが筋力トレーニングです。
筋トレをしていた人では、運動をしていない人と比べて認知症発症リスクが約74%低い
という結果でした。
調整後ハザード比は0.26です。
これは非常に大きな差です。
ただし、ここで注意していただきたいことがあります。
これは「筋トレをすれば認知症が74%予防できる」という意味ではありません。
この研究は、薬の効果を比較するようなランダム化比較試験ではなく、普段どのような運動をしているかを観察した研究です。
もともと筋トレをできる人は、
・体力がある
・健康状態が良い
・活動的である
・生活習慣が良い
といった違いを持っている可能性もあります。
ですから、
筋トレそのものが認知症を74%減らした、と断定することはできません。
それでも、筋トレをしていた人で認知症発症が少なかったという結果は、とても興味深いと思います。
ゲートボールでも認知症リスクが低下
もう一つ有意差が出たのがゲートボールでした。
ゲートボールをしていた人では、運動していない人と比較して認知症発症リスクが約32%低い
という結果でした。
私はこの結果も非常に面白いと思いました。
なぜならゲートボールは、単に体を動かすだけの運動ではないからです。
ゲートボールでは、
・歩く
・ボールを打つ
・距離を考える
・狙う
・ルールを覚える
・作戦を考える
・人と会話する
ということを同時に行います。
つまり、
運動+頭を使う+人と交流する
という3つの要素が入っているわけです。
認知症予防には身体活動だけでなく、社会参加や人とのつながりも重要だと言われています。
その意味でも、ゲートボールという運動は非常に理にかなっているのかもしれません。
意外にもウォーキングでは有意差なし
今回の研究で興味深かったのは、
ウォーキングでは認知症発症リスクの有意な低下が認められなかった
ことです。
体操やゴルフでも同様でした。
ただし、ここを誤解してはいけません。
今回有意差が出なかったからといって「歩いても意味がない」ということでは決してありません。
ウォーキングには、心肺機能の維持、血圧改善、血糖改善、肥満予防、フレイル予防など多くのメリットがあります。
認知症予防についても、これまでの研究では身体活動の有用性を示すデータは多数あります。
今回の研究から言えるのは、
運動なら何でも同じではない可能性がある
ということではないでしょうか。
なぜ筋トレが脳にも良いのか
筋トレというと、「筋肉をつけるための運動」と思われがちです。
でも筋肉は、単に体を動かすためだけの組織ではありません。
筋肉は代謝にも大きく関わっています。
筋肉量が維持されることで、
・インスリン感受性の改善
・血糖コントロールの改善
・フレイル予防
・転倒予防
・身体活動量の維持
などにつながります。
さらに運動によって、脳の神経細胞の成長や可塑性に関与するBDNF(脳由来神経栄養因子)などが増える可能性も指摘されています。
高齢になるほど、「体を動かせること」そのものが認知機能を維持するためにも重要になります。
筋肉と脳は、私たちが思っている以上に深くつながっているのかもしれません。
認知症予防は「歩くだけ」ではなく
今回の研究を見て、
「今日からウォーキングをやめて筋トレだけしましょう」
という話ではありません。
むしろ私なら、
歩く+筋トレ+頭を使う+人と交流する
この組み合わせをおすすめしたいです。
例えば、
ウォーキングだけで終わらせるのではなく、
軽いスクワットや椅子からの立ち上がり運動を加える。
そしてできれば、友人と一緒に運動したり、趣味のサークルに参加したりする。
運動を「体を鍛えるもの」だけでなく、「脳と社会性も刺激するもの」として考えるといいのかもしれません。
筋肉は何歳からでも大切
高齢者の診療をしていると、
「もう年だから筋肉なんて増えませんよ」
と言われることがあります。
でも、そんなことはありません。
高齢になっても、適切な筋力トレーニングによって筋力は改善します。
もちろん無理な負荷をかける必要はありません。
椅子からゆっくり立ち上がる。
壁を使って腕立てをする。
軽いスクワットをする。
それだけでも十分な筋トレになります。
大切なのは、続けること。
そして生活の中で筋肉を使い続けること。
認知症予防という観点からも、「歩くこと」だけではなく、これからは
「筋肉を落とさない」という視点をもっと大切にしてもいいのではないでしょうか。
今回の研究は、
筋トレやゲートボールに参加している高齢者では、認知症発症リスクが低かった
という観察研究です。
因果関係が証明されたわけではありませんが、
運動の「量」だけではなく
「どんな運動をするのか」
を考えるきっかけになる、とても興味深い研究だと思いました。
私自身も、健康寿命を延ばすためには
歩くこと
筋肉を維持すること
頭を使うこと
人と関わること
全部が大切だと思っています。
何歳になっても、
筋肉と脳は使い続けたいですね。
【参考文献】
Nagata K, et al. Types of Exercise and Risk of Developing Dementia in Older Japanese Community-Dwelling Adults: A Prospective Study. Geriatrics & Gerontology International. 2026;26:e70774.
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