中学校時代、小谷野は一度だけドラムを叩いたことがあった。
通称「3年生を追い出す会」で、在校生たちが歌や寸劇を披露して卒業していく3年生を送る行事が毎年行われていたが、小谷野はそのお礼の意味を込めて有志と演奏を披露したのであった。
音楽の教師の発案で集まった3年生有志の中に小谷野はいた。集まった有志で相談し、ジローズの「戦争を知らない子供たち」を歌うことになった。ギター二人とウッド・ベースと歌の担当数人が立候補する中、小谷野はたまたま学校にあったドラムを叩いてみたいと思った。
ドラムはそれまでまったく触ったことがなかった。
音楽の時間に大太鼓を叩く機会があり、「リズム感がいいね」と音楽教師から褒められたことがあった。たかが、小節の頭に1回か2回叩く程度の演奏でそんなに褒められるほどのこともない。そんなことくらいで自分のリズム感が他人より良いとは思いもしない。ただ、皆の前で褒められたことが嬉しかっただけである。
小谷野は、褒められたからということではなく、何の根拠もなく自分にはドラムが出来るような気がしていたのだ。
当時人気があったタイガースやテンプターズなどのグループ・サウンズをテレビで見ていると自然に箸やその辺にある棒状のものでドラムの真似をしてよく遊んでいた。今でいうエア・ドラムみたいなものである。
放課後、有志が集まって何度か練習をした。ギターを持った二人は、もともと「戦争を知らない子供たち」のコードは音楽雑誌で知っていた。ベースは、ギター・コードに合わせたシンプルなアレンジしかできない。それでも、あるとないとでは見栄えも雰囲気も違う。
小谷野は、その都度、エアで手を動かしてイメージするだけだった。実際に事前にドラムを叩いて練習できたのはたったの1回だけだったのである。
エアで練習したとおり、ハイアットとスネアで8ビートを刻むとタムやバスタム(フロアタム)を使ってタカタカトコトコとありきたりなフィルを入れる。さすがにバスドラだけは使えなかった。両手のほかに足まで動かすのは至難の業だ。
演奏が始まると緊張のせいもあって、段々テンポが速くなっていくのが自分でもわかった。ギターの一人が眼でそれを訴えているが一度早くなったテンポは元に戻らないし、きっと無理に戻したら演奏がバラバラになってしまうだろうとそのまま最後まで突っ走った。
演奏が終わると、案の定、ギターの一人から「早いよ」と言われてしまったが、演奏そのものは思いのほかうまくいったと思っていた。
小谷野のドラム演奏を見た音楽教師は「どこで覚えたのか」と訊いてくるほど驚いていたようだった。謙遜したつもりはないが、小谷野はそんなに驚くほどでもないのにと思っていた。
演奏が終わって気を良くしていると、学年主任が血相を変えながら飛んできた。
「誰がこんなこと許可したんだ?私は聞いてないぞ」
すごい剣幕で怒っている。みんな、鳩豆状態で唖然とするしかなかった。自分たちは、音楽の先生から声をかけられて参加したまでなのだから。
その後、音楽の教師は学年主任から大目玉をくらったと後で知ったが、勝手にやったことが悪かったのか、演奏した曲がよくなかったのかは、細井に訊いてもわからないとのことだった。ただ、小谷野にとっては楽しかった思い出の一つに過ぎなかったのである。
その後、高校に入学した小谷野はドラムに触れる機会もなく、バンドを組んでみたいというあこがれはあこがれのままで終わった。そもそも楽器が買えるほど裕福ではなかったし、ましてやドラムなどとんでもなかった。たとえ、手に入れることができたとしても置く場所も練習する場所もなかったのだ。
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さて、本日取り上げるアルバムは、WYNTON KELLYの『KELLY at midnite』(1960年)である。
マイルス・デイビス・クインテットの一員だった時代に同じメンバーであるポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)とレコーディングしたもの、でいいのかな。
Vee-Jay3部作の一つと言われていてケリーの代表作のひとつでもある。
スペルが違うのでは思って調べたら、一般的に使っている「midnight」はただの「夜中」で、「midnite」は「真夜中」になるらしい。
いずれにしろ、真夜中に聴くようなものでもないほどケリーのピアノはメロディアスで聴いていて楽しい。これがハードバップであるならば、やはりこの時代が自分にとっては一番わかりやすくて楽しいのかもしれない。
メンバーもマイルスと一緒にやっているためか息が合っている気がする。
フィリーのドラムソロもトリッキーな感じで面白い。
以下「ウィキペディア」からの抜粋であるが、半分くらいわかったような、わからないような(笑)
『マイルス・デイヴィスはケリーを、レッド・ガーランドとビル・エヴァンスの「ハイブリッド」と評した。これは彼のかつてのバンドリーダーによるケリーについての非常に的確な説明で、ケリーは(ガーランドのような)リズム感をベースにしつつ、エヴァンス風に抑制された表現で演奏を行った。
大部分のジャズ・ピアニストは、ウイントン・ケリーがこれまでで最もスウィングするジャズ・ピアニストであると見なしている。彼の8分音符の分析は、彼がスウィングの幅を広く変化させていたことを明らかにしている。時には伝統的なスウィングする8分音符よりも、むしろよりストレートな8分音符に演奏する傾向があり、更にはビートの「オントップ」で、初期のピアニストの習慣であった「レイドバック」をより少なく演奏した。ケリーはまた、明確なスタッカートのタッチによる均等な8分音符のラインで演奏する傾向がある。この様式上の特徴は、より「モダンな」サウンドのためにこのコンセプトを採用し拡大したマッコイ・タイナー、チック・コリア、ハービー・ハンコックのようなピアニストの方法論を生んだ。』
そういえば、マッコイ・タイナーもピアノタッチが強い気がする。またの機会に取り上げてみたい。
Pot Luck - Wynton Kelly Trio - YouTube
