翌日もその次も杏子は欠席した。
「電話したのか?」
橋口は、じれったくなり怒ったように優斗に訊くが
「してないよ。だって、別れたんだから・・」
相変わらず、優斗も意地を張っている。
業を煮やした橋口は、帰りのホームルームになると、担任に杏子のことを訊いた。
「ああ、北村さんですか?北村さんね、少し体調を崩したのでしばらく休むと連絡がありました」
暢気な感じの担任の言い方に橋口はさらに腹が立った。
「体調ってどうかしたんですか?本人から連絡があったんですか?」
立て続けに訊く。
「詳しい話は聞いてませんが、連絡は親御さんからでした」
「なんだ、聞いてないんかよ。使えねえなあ・・」
「え?何ですか?」
小声で言ったつもりが担任にも聞こえてしまったようである。橋口は、むしろ聞こえた方がいいくらいに思った。
今日は珍しく橋口が一緒に帰ろうと優斗に声をかけてきた。
「加奈子はいいの?」
「ああ、今日は断ってきた」
橋口は余裕があるなと、優斗は感心する。
「杏子、体調が悪いってどうしたんだろうな?」
優斗よりも橋口の方が心配しているようだ。
「優斗、心当たりはないの?」
「知らない」
「また、知らない、かよ」
優斗も内心は心配しているが、別れた手前、心配げな顔はしないように意識していた。
「ひょっとして、できちゃったんじゃないか?」
橋口が意味深なことを言う。
「できたって、何が?」
優斗は鈍感である。というか、身に覚えがないからでもある。
「優斗、はらましちゃったんじゃないのか?」
「そんなわけないよ。やってないんだから・・」
待てよ。
相手が自分だとは限らない。え?そうなのか?それで、別れを言い出したのか?
優斗は、突然、混乱してきた。
自分と誰かと、二股かけていたのか?
自分が手を出さないからそっちへ靡いてしまったのだろうか。だとしたら、許せない。
優斗は勝手に裏切られた気分になってきたが、それを直ちに否定するもう一人の自分がいた。いやいや、杏子はそんな子じゃない。これまで、一緒に過ごしてきた時間は二人にとってかけがえのない時間だったはずだ。
優斗は、そう自分に言い聞かせると、少しでも杏子を疑った自分を恥じた。
その夜から、杏子のことがやけに気になって仕方がない。気になるのは体調だけではない。とにかく、会って話がしたい。会って、安心したい。何をしていても杏子のことが頭から離れないのである。
電話してみようかと迷った。
別れたのだから、それも杏子から言い出したのだから、今更杏子を気遣う必要はあるのか。いやいや、そうはいってもこれまで楽しくやってきた仲ではないか、知らん顔していては薄情ではないのか。そうやって、自問自答しては結局受話器を持つ勇気がわかなかったのである。
杏子が学校に来なくなってから、一週間が過ぎた。
優斗は加奈子に訊いてみたが、加奈子が何回か電話してみても誰も応答がなかったらしい。それじゃ、自分が電話しても無駄だなと電話しない言い訳を探す優斗だった。
そうしている間に時は流れていった。
二週間が過ぎようとしている。このままだと授業も遅れてしまうし、出席日数が足りなくなってしまうかもしれない。一緒に卒業できないようでは可哀そうだ。
優斗は、思い切って電話してみることにした。決心してみると、なぜもっと早く決心しなかったのかが悔やまれる。なんでいつも俺はこうなんだと自分自身を嘆くのだった。
呼出音が鳴っている。
なかなか電話に出ない。
やっぱり、俺が架けても駄目かな、あと一回鳴らして出なかったら受話器を置こうと思ったときだった。
電話がつながったことがわかると、優斗は急に緊張した。杏子本人かな?母親だったらどうしよう。俺との交際を辞めろと言った張本人だ。なんて切り出そうか考えていなかった。
「もしもし、北村ですが・・」
電話に出たのは母親だった。受話器を持つ手が汗ばんでいる。
「もしもし、斎木です。あの・・」
「ああ、優斗君って言いましたっけ?なんでしょう?」
「あの、杏子さんは、出られますか?」
「う~ん、もう休んでしまったので・・ごめんなさいね・・」
母親は、早く電話を切りたがっているように思えた。優斗は慌てる。
「ああ、あの・・。なんか体調が悪いって聞いているんですが、どこがわるいんですか?」
「ううん、ちょっとね。こじらせちゃって・・・電話があったことだけ伝えておくわ。ありがとね」
ブツ!と切れた後からツー、ツーという機械音だけが妙に冷たく響いてくる。まるで、優斗を拒絶しているような、もう電話してくるなと言っているように聞こえた。
ああ・・入院しているのかどうか訊きだそうとしたが、一方的に電話を切られてしまった。
やっぱり、杏子の成績が落ちたのも自分のせいだと思われているのだろうか。杏子にはほんとに伝えてくれるのだろうか。体調はいつから悪くなったのだろうか。
やっぱり、会いたい。会って、もう一度ちゃんと話がしたい。
優斗は、その後もめげずに何回か電話してみたが、とうとう誰も電話に出ることはなかった。
Denwa Shitemo (2012 Remaster) - YouTube
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さて、本日取り上げるアルバムは、LUCINDA WILLIAMS の『THIS SWEET OLD WORLD 』(1992年)である。
前回取り上げたエミルー・ハウスが歌っていた「Sweet Old World」のオリジナルがタイトルになっているアルバムで、ルシンダの4作目の作品である。
カントリー調の曲もあればロックンロール、バラードっぽい曲もあり多彩であるが、一貫してルシンダ特有の気怠い歌い方である。
私は好きであるが、このようなボーカル・スタイルは好き嫌いがあるかもしれない。
ルシンダ自らもギターは弾くが、バックのSTUART MATHISとGREG LEISZのギター・プレイがソロもリズムもいい感じで、聴いていても飽きさせないし、曲にいい表情を与えている。
Lucinda Williams/Emmylou Harris/Neil Young - Sweet Old World - YouTube
※エミルーハリスとニールヤングとともに
