夕陽が水平線に沈みかけると、辺りの暗さが加速する。
優斗は、ジーンズの砂も掃わず昼と夜の狭間に立ち尽くしていた。杏子は、まだ座ったまま下を向いている。
「ねえ、どうしたのさ」
「なんで、別れたいの?」
「やっぱり、俺じゃだめなの?俺じゃ、物足りない?」
優斗は、突然の別れ話に混乱していた。立て続けに質問を杏子に浴びせる。
「そうじゃない」
やっと、顔をあげた杏子は涙目になっている。
(え?泣いてるの?なんで?泣きたいのはこっちなんだけど)
優斗は、さらに混乱してくる。
「母がね、そろそろ受験勉強に本腰を入れなさいって言うの。私ね、最近、成績下がってきちゃったでしょ。ちょうど、優斗と付き合い始めてからだから、そのせいだろうって母が言うの。今のままじゃ、いい大学は入れないよって・・・」
「ええ?そんなあ・・別にいいじゃん、これから勉強頑張れば・・まだ、いくらでも時間あるじゃない?俺と一緒じゃ駄目なの?」
「・・・・」
風がジーンズの砂をはらはらと落としていく。
「いつから別れようって思ったの?」
優斗は、少し落ち着いては来たもののまだ動揺していた。
「最近、ずっと迷ってた。ほんとは、別れたくない。優斗といると楽しいし、今日も楽しかった。だから、さっきまで迷ってた。」
「じゃ、いいじゃない。勉強は勉強で頑張れば・・・」
「それじゃ、駄目なの」
「どうしてだよ」
「どうしても・・・ほんとにごめん」
砂の城が波で崩れていく。優斗が作ったものだ。
「しばらく迷ってて、もしも別れるとしたら、最後に、鎌倉の海を見たいと思った。優斗との想い出を残したくて・・」
「そんなの勝手だよ!」
杏子が言い終らないうちに、優斗は語気を荒げた。
勝手だよ。勝手すぎるよ。内側から湧いてくる感情は、形となって目頭から外側に溢れ出てくる。
2回目の波がきて、砂の城は完全に崩れた。
引く波は、何もかもさらっていく。二人が一緒に過ごした時間さえも跡形もなく・・・。
「とりあえず、遅くなるから帰ろう」
そう言い終らないうちに優斗は尻に着いた砂を掃った。
いつの間にか、夕陽が水平線に全部隠れようとしていた。
優斗が歩き出すと、杏子はやっと腰を上げた。優斗が振り返ると、哀しげな杏子のシルエットが風に消えそうに揺れていた。
帰りの電車は混んでいた。優斗と杏子は、車両の角に追いやられると横に並んで吊革につかまった。
優斗は、気持ちの整理がつかないまま、ゆっくりと後ろに逃げていく街の灯りをぼんやり見ていた。頭の中には、杏子も好きだと言っていた「三番目に大事なもの」が流れている。
これじゃ、歌の歌詞とおんなじじゃないか。まさか、こんなことになろうとは夢にも思わなかった。
ふと電車が揺れた瞬間、杏子が優斗の手を掴んだが、優斗はどうしても握り返すことができなかった。
ガラス窓に映る杏子は、うつむいたままでいて表情が見えない。今、何を思っているんだろうか。何か声をかけてやりたいのに言葉が浮かばない。こんなとき、何を語ればいいのだろう。
二人が黙ったままでいるうちに電車は東京駅のホームに滑り込んでいく。
来るときはあっという間だったのに、帰りの時間はとてつもなく長く感じた。
「それじゃあ」
杏子が顔を向けてきた。
「え?まだ、先があるでしょ?」
優斗が驚く。
「今日は、親戚の家に泊まるんで、ここで・・」
「え?そうなの?」
優斗が怪訝な顔でいるのも気づかず、杏子はさようならと言って踵を返した。その瞬間、唇をかんでいるのが優斗にもわかった。
(さようなら? いつもは、じゃあまたって言ってたのに・・)
それが優斗には気になった。
優斗は、足早に去っていく杏子の後姿を見送ると、別な路線のホームに向かった。
ффффф ффффф ффффф
さて、本日取り上げるアルバムは、JACKSON BROWNEの『HOLD OUT』(1980年)である。
ジャクソンの6作目のアルバムで、ビルボード・チャートで1位を獲得した唯一のアルバムだとのことである。
ジャクソンの曲は、どの曲もいい意味で同じように聴こえる。
じっくり聴けば聴くほどに沁みてくるのである。あれ?誰かの記事にも同じようなこと書いたかな(笑)
一部にはコマーシャリズムに走ったアルバムだとかいう評もあるようだが、あまり関係ない気がする。みんな深みのあるいい曲なのだ。
ジャクソンの作品にはお馴染みのデビット・リンドレーのラップ・スティール・ギターやローズマリー・バトラーらのバックボーカルがいい。
"Of Missing Persons" - Jackson Browne - YouTube
※リトルフィートのローウェル・ジョージの娘に贈ったと言われている曲
