体育の授業は、男子と女子で別れ、隣の6組の男子と一緒に受ける。
優斗は運動神経が良い方ではない。特に鉄棒・跳び箱・マットなどの器械体操を最も苦手としている。駆足もさほど早くない。中学校時代はバレー・ボール部にいたので多少の心得はある。他の球技についてもそこそこはできるが、バスケット・ボールだけは苦手としていた。
なにしろ、バスケはチームに5人しかおらず、絶えずコートを走り廻らなければならない。手を抜いて休んでいる暇がないからだ。ドリブルやシュートも下手である。
高校の体育の授業は、稀に鉄棒や柔道もやるがほとんどが球技だった。
あるとき、バスケの授業があった。そもそもルールも知らないし、教師が特に教えてくれるわけでもなく、いきなりいくつかのチームに分かれてのゲームが行われた。競技も苦手なうえに、チームには優斗の苦手とする杉沢滋がいたのである。
杉沢もさほどバスケが上手いわけではなかった。そもそも上手いやつはおらず、皆、どんぐりの背比べであった。
試合が始まって間もなく、杉沢がボールを持った。ドリブルしながらゴールに向かっていく。相手チームのメンバーがそれを阻止しようとガードしてくると、前にパスするフェイントをしたかと思うと横にいた優斗にパスをしてきたのである。
ただでさえボールを触りたくない優斗は、杉沢が前にパスを出す素振りをしたのですっかり前方に意識がいって、ボールを取り損ねてしまった。味方のパスに味方がひっかかってしまったというお粗末である。
「ちぇ、何やってんだよ」
すかさず、杉沢の罵声が飛んできた。優斗は、「わりい」と言って謝るしかなかった。それにしても、体育のゲームくらいでそんなに文句言うなよと思ったが口には出さない。やっぱり、こいつは嫌いだと改めて優斗は思った。
サッカーの時も同じようなことがあった。今度の相手は優斗ではなく、沼田だった。
サッカーと言っても隣のクラスの男子20人と優斗のクラスの男子20人で戦うのである。ほとんど未経験の男子がやる試合は酷いもので、パスを回すというよりも一段となってただボールを追いかけ回しているだけなのである。
優斗のクラスに“逆サイの坂本”と異名をとる男子がいた。見方がボールを持つとすぐに「逆サイ!」と叫びながらゴールに向かって走り出すのである。優斗は、「逆サイ」の意味が分からなかった。逆のサイドに大きくパスを回せという意味だと知ったのはかなり後からだった。
それにしても、誰も坂本にパスする者はいなかったので、優斗の眼には滑稽な存在に映っていた。
試合が始まりしばらくすると杉沢にボールが回ってきた。杉沢もさほど上手くはない。
すぐに近くにいた沼田にパスを回したのである。すると、沼田は太った身体をよじりながらまんまと空振りをして、相手チームにボールを奪われてしまったのである。
杉沢は相変わらず「だせいなあ」と沼田をなじる。優斗と違って、沼田は言われて黙ってはいない。
「なんだと、てめえ!」と掴み合いの喧嘩になりそうになった。そこに吉本が仲裁に入って事なきを得たのである。
そんなとき、優斗は静観しているだけだ。そもそも、沼田はボールのないところで一人で走っていても転んでしまうことがあって、たまたま隣にいた奴に「てめえ、何するんだよ!」といちゃもんをつける始末である。
本人が言うには、中学校時代は陸上部で痩せていたんだとのことであるが、どうにも想像がつかない。
優斗は、沼田が落ち着いてから「守備でもやろうか」と声をかけると、「そうだな」とゴールに陣取った。実際、ゴール・キーパーを率先してやろうという者がいない。相手のシュートを受けたり、それで失点したりするのが嫌だからである。そのため、ゴールは双方ともがら空きでローグ・シュートが上手くハマればゴールになることもあった。
「疲れるよな」
沼田は、ゴールネットの前に座り込み、休憩、休憩と叫ぶ。優斗は沼田の傍らにたたずみながら雑談を始めた。
しばらく、二人でくだらないことを話していると、「優斗~、行ったぞ~」と言う声が聞こえてきた。振り返ると、ボールがゴール周辺に転がってきた。そのボールを追うようにして6組の男子が数名追いかけてくる。
(おお、やばい)
優斗は、慌ててボールを思いきり蹴り返す。すると、ボールに向かってまた黒い塊が追い掛けていく。ゴールに迫ってきた連中も一旦がっかりした顔をしながらも、またボールを追いかけていくのである。なぜ、それほど執着できるのか優斗には理解できないで、沼田と笑いながらボールの行方を追うのである。
そんなことを何度か繰り返すうちに体育の授業は終わった。毎回、こんな授業ならいいなと思うのであった。
さて、本日取り上げるアルバムは、RICKIE LEE JONESの『RICKIE LEE JONES』(1979年)である。
リッキーのアルバムは、過去に取り上げていたと思っていたが調べてもヒットしないので初めてなのかもしれない。
ならばと、ベタな傑作デヴューアルバムをとりあえず取り上げることとした。
きっと、他のブロガーの方々が取り上げていたので気後れしたのかもしれない(笑)。
邦題が『浪漫』と命名されたデビュー作は、全米3位となるもそれも知らず、正直、リアルタイムでは聴いていない。
マイケル・マクドナルド、ドクター・ジョン、スティーヴ・ガッド、ジェフ・ポーカロ、ニール・ラーセン、アーニー・ワッツ、トム・スコットら豪華なメンバーがバックを務めている。
他のアルバムも聴いているが、後の作品は歌い方が気怠い感じになっていて、まだそれをあまり感じないこのアルバムの方が入りやすいし、楽曲も粒ぞろいな気がする。
ジャズ、フォーク、ロック、ブルースなど多彩な音楽性を感じるし、歌唱が魅力的な彼女、ジャケット写真も雰囲気があって好きなアルバムである。
Rickie Lee Jones - Young Blood - YouTube
