一年から同じクラスだった橋口豊と優斗は2年になっても仲は良い。

 橋口は、2年になった途端に色気づいて、眉を細くしたり、ニキビの跡も減って、何気にスッキリしていた。

 

 一年の冬休みに、退屈だからと映画に誘われたことがあった。何を見るかと思えば、正月映画「男はつらいよシリーズ」だった。

 映画館は、正月ともあって満席であった。ポップコーンを買い込んで、臨戦態勢だ。

橋口は、見かけによらず寅さんが大好きで、やがて食い入るようにしてスクリーンに入りこんで行くのである。

 優斗が困ったのは、橋口が寅さんの登場にいちいち反応しては何か喋るし、笑い声も人一倍でかいのである。時には、スクリーンを指したり、手は叩きながら大笑いする。所謂、“迷惑な客“であった。

 橋口が笑うたび周囲の目がこちらに集中するのがわかる。優斗は恥ずかしくて映画に集中できないでいた。

 佐藤蛾次郎がお寺の御前様から叱られるシーンでは、「蛾次郎、ダサい!」「蛾次郎、ダサい」と叫んしまう。

(お前の方がダサいんだよ!)と言いたかったが、優斗は指を口に当てて「シー!」と嗜めただけだった。

 橋口のおかげで冷や冷やしながらの映画鑑賞は、面白さがすっかり半減してしまい、むしろ疲れて出てきた。つらいのは寅さんじゃなくて俺じゃないかと優斗は苦笑した。

 それにしても、橋口が寅さんの大ファンだったとは意外であった。橋口にこんな側面があったとは・・・。

 

 意外と言えば、いつだったか橋口の家に遊びに行ったときのことである。

 橋口の部屋にはギターが置いてあって、訊けば吉田拓郎が好きだと言って「マークⅡ」を歌ってくれた。なぜか、カーテンを閉めて部屋を暗くして歌うのである。こうしないと気分が出ないんだとか、何の気分かわからないが・・・。

 意外だったのは、ギターも歌も上手いのである。むしろ、優斗よりも上手いのではと思えるくらいの腕前だ。これには優斗も驚き、フォークソング同好会に入ればと勧めたのだが、人前で歌うのは苦手なんだとのことである。野球部も辞めて暇してるのであれば、なおさらいいのになと思った優斗であったが、橋口は頑なであった。

 優斗は、無理には勧めなかったが内心ほっとしたのも事実であった。橋口が入会したら、自分が目立たなくなるかもしれないと思ったからでもある。

 

 

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、TANYA TUCKERの『TNT』(1978年)である。

 

 

 

 

 タニヤ・タッカーは、アメリカのカントリー・シンガーである。と、一言で片づけていいかはよくわからない。

 13歳でリリースした「Delta Dawn」が大ヒットして、その後も現在まで活躍を続けているようだ。

 

 若い頃、ハードロック一辺倒から女性ボーカルも聴き始めたが、最初に気に入ったのがこのタニヤ・タッカーだったと思う。

 もちろん「Delta Dawn」もいいが、「San Antonio Stroll」が好きで、ネットでもCDが簡単に入手できるようになった頃、ふとタニヤを思い出し、当時のアルバムを物色したがなかなか見つからず、結局、その曲が入っているベスト・アルバムを入手した。

 それでも、やっぱり他の曲も聴きたくて、探して入手できたのがこのアルバムである。

 

 このアルバムは、彼女の9作目のアルバムである。9枚目と言ってもまだ20歳の頃だからすごいね。

 それまでのカントリー色からロック色の強い楽曲を取り入れているが、こんなビートの曲を歌わせてもいい。

 バディ・ホリーの「Not Fade Away」、プレスリーの「Heartbreak Hotel」、チャック・ベリーの「Brown Eyed Handsome Man」などカッコよくキメている。

 

 タニヤ作詞の「I’m The Singer, You’re The Song」など、バラード調の曲もグッとくる。

 

 

Lover Goodbye - YouTube

 

Heartbreak Hotel - YouTube

 

Tanya Tucker - I'm the Singer, You're the Song - YouTube