改めて退団の意思を固めた優斗は、顧問の伊原に退部届を提出した翌日、新団長である峰山に伝えに行くつもりで登校した。ところが、優斗の退団の噂はあっという間に一年生団員に知れ渡っていた。

「斎木、おまえ辞めるんだって?」教室に入るなり、待ち受けていた小沢が寄ってきた。ああ、と返事をする間もなく、新団長の峰山が飛んできた。

「おまえ、辞めるんかよ!俺にはあいさつ無しかよ!なんで、事前に相談しねえんだよ!」矢継ぎ早にまくしたてる峰山の権幕に優斗はたじろいだが、落ち着いて話し出した。

「今日、お前に話に行こうと思ってたところだよ。第一、事前に相談したら慰留されるに決まってるだろ?」

「当たり前だよ。今、お前に辞められたらどうなるんだよ」

「それは悪いと思ってるよ」そう言った後で、顧問の伊原や原田団長に説明した同じ内容を話した。

「そんなこと心配するなよ」

「心配だよ。お前らは頭がいいからいいけど、俺はバカだから必死でやらなきゃ進級できねえんだよ」

いつの間にか、よそのクラスの東や丸田まで優斗を取り囲んでいた。同じクラスの田村は、少し距離を置いて見守っている。

「ほんとに悪いと思っているけど、とにかく、わかってくれ、すまない」優斗がそう言うと同時に1時間目のチャイムが鳴ったため、峰山、東、丸田はしぶしぶ自分の教室に戻って行った。

 

 大林加奈子や北村杏子らが遠巻きにこちらの様子をうかがっていたのは優斗も感じていた。案の定、休み時間になると杏子が声をかけてきた。

「援団辞めちゃうの?」

「うん」優斗は杏子の眼を見ずに頷いた。

「そう」としか杏子は言わずに自席に戻ったが、何かを決心した表情だった。優斗はそれに気づかなかった。

 

 昼休みになると、また峰山がやってきた。

「斎木、藤木副団長が放課後屋上に来いってよ」

「え?」「もう退部届提出して、正式に辞めたんだから・・・」

「一応、伝えたからな」そう言って峰山は出て行こうとした。

「ちょっと待てよ」優斗は慌てて峰山を引きとめた。

「副団長が何の用があるんだろ?聞いてる?」

峰山は少し躊躇した後に「やばいかもよ」とだけ言って出て行った。

行くとやばいのか、行かないとやばいのか、どっちなんだ。優斗は、どうしたものかと思案をめぐらすのだった。

 

昼休み、応援団の部室では副団長の藤木がいきりったっていた。

「斎木が辞めるんだって?」「ふざけやがって・・・」「お前ら知ってたのか?」「それでいいのか?」優斗を非難しているうちに矛先が段々峰山や小沢たち一年に向いてきた。

「あの野郎、ただじゃおかねえ、しごいてやるから放課後屋上にくるように言っておけ!」

そこへ原田団長も入ってきて藤木を諭した。

「もう止めておけ。暴力事件でも起こしたら大学受験にも影響が出るだろうし、そもそも退学になるぞ」

「そうは言われても、気が済まない。俺が根性叩き直してやる」そう言って藤木は鼻息を荒くして部室を出て行った。

「もう後のことはお前らにまかせた」団長も藤木に続いて出て行った。

 残された峰山や小沢らは困った様子で顔を見合わせた。

「まったく、斎木のやつ俺らに相談もなく、ふざけてるよなあ」口火をきったのは東だった。

「団長からみんなで話し合えっていわれたけれど、どうするよ?」小沢が続くが、峰山は終始沈黙している。新団長の自分に相談もなく辞めていく優斗に腹を立てていた。

「もうどうなっても知らねえぞ」峰山は絞り出すように言って、部室を出て行ってしまった。

 

 放課後が近づいてきた。優斗は、屋上に行くべきかどうか迷っていた。あの藤木副団長が呼びつけたということは、何をされるかわからない。もう退部届を出したし、団長にも退団の意思を告げてあるのだから、事実上退団したのである。これ以上、副団長の指示に従う必要はないのではないのか。それとも、仮に殴られようとも今度は辞める意志は固く覚悟もできている。いっそ、好きにさせた方がすっきり辞められるのではないか、などとなかなか結論が出ない。

 でも、もういいや、俺は応援団を辞めたんだ。そう強く自分に言い聞かせて、とんずらすることに決めた。そうとなれば、彼らに見つからないようにさっさと下校するのが一番だ。

 優斗は、ホーム・ルームが終ると一目散で教室を飛び出した。小沢が声をかける間もなくいなくなった。優斗は、部室の前をすっと通り抜け、あっという間に校門の外に出ることができた。これでまずは一安心だ。明日は明日で何とかなるだろう。優斗は、いつになく気が大きくなっていた。

 

 小沢が着替えるために部室に入ると、後から峰山も入ってきた。

「斎木のやつ、とんずらしたよ」

「ふん、そうだろうと思ったよ。藤木さんの様子じゃただじゃ済まないだろうし、むしろ、その方がいいかもよ」

「でも、斎木が来ないとやばいんじゃないか?藤木さんの腹の虫が治まらないだろ?」

「そうだろうな、でもしょうがないよ、もう」

 峰山も小沢も諦めて屋上に上がった。屋上に出ると、既に、藤木が待ち構えていた。

「斎木はどうした?」

「とんずらしたようです」

「なんだと!あの野郎!」「おまえら、なんで捕まえて連れてこなかったんだよ!」

「すみません、あっという間に居なくなっちゃって・・・」

 藤木は、真っ赤な顔で激高していたが、実は内心ほっとしていた。実際に、優斗が来たら感情に任せて自分は何をしたかわからない。原田団長や一年の前で啖呵を切ってしまった手前、引っ込みがつかなくなっていた面もある。

藤木は、そんな気持ちを一年には読まれまいと、とりあえず残った一年をしごいて憂さを晴らしたのだった。

 

 

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、GAOの『Gao-selves Vol.1』(1994年)である。

 



 そういえばボーイッシュなルックスでハスキー・ボイスなGAOってのが昔「サヨナラ」って曲歌ってたよな。あれ、好きだったな。

 また、聴きたくなってその曲の入ったCDを探して、いつの日にか購入したものだった。

 

 近況を調べてみたら、今でもバンドを組んで活動しているらしい。このアルバムも5作目のようだ。

 その前年にリリースした『GAO』(1993年)も持っているので、また機会があったら取り上げたい。

 

 曲は作詞だけで、曲は別な人が作曲していて、8曲しか入っていない。レコーディング場所は不詳

聴きたかった「サヨナラ」はもちろんのこと、「君にゆられて」や「HI・TO・MI」辺りが好きかな。