優斗は応援団を辞める決心をしたが、いつどのように申し出るかが問題だった。
予想どおり、親にはみっちり絞られた。優斗は、湯鬱な気分で大晦日を迎えた。もやっとした気分で紅白歌合戦を見ていた。華やかな衣装で登場する歌手たちの姿も歌も少しも入ってこなかった。
年が明けて、新年を迎えた。いつもと変わらぬ朝だ。ましてや年末からの気分を引きずったままである。それでも母親の作った雑煮と質素なお節を食べるといくらか気分も変わった。両親の態度もいつものそれに戻っていたせいもある。
優斗は、気分を切り替えて、スムースに退団するための作戦を練った。退団の申出は、3学期が始まった早々に申し出るべきだ。いつまで先延ばししている猶予はないのだから。さっさと辞めてスッキリしたうえで、3学期の勉学に集中したいのだ。そうしないと、「留年」という現実が待ち構えているのだ。
まずは、顧問の伊原だ。顧問と言っても、ほとんど練習を見に来ることはない。団長にまかせっきりで、甲子園の予選大会と夏合宿の初日に見たきりだ。「社会」の教師であるが、優斗は直接教わっていないため、どんな人物かあまり読めない。
原田団長や峰山新団長に相談すれば慰留されるに決まっている。そこでまたグズグズやっていると抜けられなくなる。顧問から攻めることに決めた。
3学期の始業式が終わるとその日は授業もなく、部活もなかったのでチャンスだった。今日を逃したら、またズルズルと行きそうだ。優斗は、直接、職員室の伊原に面会し、「退部届」を差し出した。
「なんだこれは?」若干驚いた顔で伊原が訊いてきた。
「すみません。応援団辞めます。退部させてください」優斗は必死な顔になる。
「なんだ、闇雲に。なんで辞めたいんだ?原田(団長)には伝えたのか?」
「いえ、まだです」
「団長が先だろう?」え?と予想しなかった反応に優斗は一瞬狼狽えたが、顧問の先生が先なのが筋かと言い返した。
「ま、いいが、なんで辞めたいんだ?」
「成績が悪くて・・・」優斗は、赤点のこと、親から言われたこと、喉の症状のことなどこれまでの経過を順序立てて説明した。
「成績なんか頑張れば大丈夫だろう?みんな、成績はいいんだから、斎木ももっと頑張れよ」
「部活つづけながらでは、もう無理です」「とにかく、留年するわけにはいかないんで・・・」優斗が最後にそういうと、伊原は少し沈黙した。無理に引き留めて、万が一留年させてしまったらまずいし、現時点で5科目も赤点があるのでは進級は難しいと判断したのだ。
「とりあえず、預かっておく」伊原は苦笑いしながら「退部届」を手に取った。
優斗は、そそくさと職員室を出ると、額に嫌な汗をかいているのに気がついた。
優斗は、ふうっと大きなため息をつく。第一関門突破だ。
次は原田団長だ。優斗は団長のいる教室に脚を速めた。できれば、一気呵成に退団の承認を得たいのだ。
教室を覗くと誰も居なかった。さすがに大学受験を控えていると見えて、さっさと帰宅したようだ。優斗は、仕方なく、仕切り直しだなと思いながら、部室の前を通ると中から人の気配がしたので覗いてみた。
部室の中には、運よく原田団長が一人居て、何やら荷物の整理をしていた。
「おお、斎木じゃないか。どした?」
「ちわっす!」とりあえず、団の習わしであるあいさつをして入室する。
「実は、団を辞めることにしました」
「は?なんだと?」驚いて思わず大きな声をあげた。声は威圧的だったが、これまでの怖さは感じられなかった。事実上引退したせいなのか、それとも優斗の意志の固さがそう感じさせたのかはわからない。
「なんだよ、突然じゃねえか。副団長が辞めてしまってどうするんだ?俺がせっかく副に推薦してやったんだぞ。俺の顔に泥を塗るつもりか?」
そうだったのか、斎木は内心驚いた。それでも、ここで怯むわけにはいかない。
「それは申し訳ありませんでした。でも、・・・」優斗は伊原に話した内容とほぼ同様の退団理由を団長に説明しだした。
団長はしばらく黙って聞いていた。内心、退部も仕方ないかと思いつつも団の行く末が心配になった。優斗が辞めてしまった後、誰を副団長にすべきか、残りのメンバーでやって行けるのだろうか、いやいや、自分はもう引退した身だし、受験を控えてこいつらにかまっている暇はない。
「気持ちはわからないでもないが、今辞めるのは無責任じゃないのか?」団長はそういうのが精いっぱいだった。優斗には、この「無責任」という言葉がひっかかった。優斗が不意打ちを食らったように沈黙していると、「いずれにしろ、みんなでよく話し合え」と言い残して出て行った。
確かに副団長にまで指名されて、今辞めてしまうのは無責任なのかもしれない。改めて葛藤が生じてきた。それでも、今辞めなければ、辞めるしかないんだと自分に言い聞かせた。
さて、本日取り上げるアルバムは、水越けいこの4作目『LIKE YOU ! 』(1980年)である。
彼女の代表曲と言えば、「ほほにキスして」「めぐり逢いすれ違い」「Too far away」などがあるが、それらの曲のあとにリリースされたアルバムなので含まれていない。
当時、なぜこのアルバムを買ったのかは自分でもわからないが、彼女の曲を聴きたかったのは間違いない(笑)。
CDではベスト盤を持っているが、こうして改めてアルバムを通して聴いてみると、ベスト盤から漏れた曲にもいい曲があるのに気づく。
楽曲の魅力もさることながら、声がなんとも言えず好きである。
ポップな曲もいいけれど、個人的には悲しくせつない曲が似合う気がする。なので、そんな曲を聴くとたまらなくなるのだ。
今の気分はノスタルジック・・・。
