空は青く、どこまでも高い。そんな空を映し出した美しい湖面が眼前に広がり、紅葉したメタセコイアがそれらを囲んでいる。
県庁所在地にある広大な緑地、その中にある広場に斎木優斗は立っていた。
三々五々と知った顔が集まってくる。いつの間にか、同じジャージ姿の男たちで広場が芋の子を洗うようにごった返ししてきた。
これから東野高校恒例の競歩大会が始まるのだ。恒例と言っても一年生の優斗にとっては初めての経験である。総延長45キロメートル、フルマラソンよりも長い距離を走ったり歩いたりするのである。
持久走の類が苦手な優斗にとっては不安がないわけではないが、このところの体育の時間もこの日のために学校の周りを何周も走らされてきたので多少の不安は解消できている。走っても歩いてもいいというところがいい。とりあえずゴールすることを目標にし、むしろ秋の一日を級友たちと楽しもうと思っていた。
「よう!早いじゃない」
同じクラスの橋口が優斗を見つけて声をかけてきた。
「おはよう」優斗が軽くて手をあげて応える。「家、遠いしさ。遅れたらまずいかなと思ってさ」優斗は、あまり良く眠れずに早く目覚めてしまっていたのである。
「一緒に走ろうぜ」橋口が言う。「ああ、いいよ」優斗は、ありがたいと思った。こんな長い距離を一人で走るのは辛いし、つまらないだろうなと思っていたからだ。
準備体操は既に終わらせた。特に出欠はとらない。首から下げた参加カードに4カ所ある中継点とゴールで判をもらうことになっているのだ。
予定時刻になると、どこがスタートラインかわからないが、順位を競う者は公園の出口近くに陣取った。
スタートの号砲が鳴らされると、約600名の男子生徒が一斉に公園から出ていく。女子は、男子より30分遅れでスタートし、20キロメートルのコースを走ることになっている。広場の周辺には既に集まってきた女子の姿がちらほら見えた。
我先にと公園を飛び出して行った生徒は、陸上部や野球部など運動部員である。毎年、上位を狙って参加しているのだ。
優斗は、応援部であったが特に好成績を目標にしてはいない。マイペースでゆっくり行こうと決めていた。橋口は、野球部であったが既に退部した後で、順位は競っていない。練習中に打球を顔に受け、顔面を切ったためかなり出血をしたらしい。それから臆病になってしまい、とうとう退部してしまったとのことである。
一団は、狭い舗道を塊になって走っていく。信号待ちが煩わしい者は、歩道橋を駆け上っていく。歩道橋はごった返していて、つまずく者もいた。
優斗は、混雑に紛れて早くも橋口とはぐれてしまっていた。橋口がどこにいるのか、先を見ても後ろを見渡してもわからない。自分より先にいるのか後ろなのかわからないため、止まることができなかった。
特に最初の10キロだけは絶対に歩くな、どんなに遅くても走りを止めるなと先輩からアドバイスを受けていた。一旦、歩いてしまうと走れなくなり、結局、ゴールまで歩くことになってしまうからだという。
住宅街を少し走るとすぐに川沿いの広大な県立公園に入った。公園中央の長い園路を通り抜けると第1中継点が見えてきた。その頃には、各走者間に間隔が空いてきていた。
園路を抜けると長田川の土手にあがった。これから、その土手沿いを第1折返し点の治鞍橋までひたすら走る。治鞍橋までが約10キロだと聞いていたので、そこまでは何とか走ろうと決めていた。
中継点や折返し点のほか、コース途中には何人かのスタッフが配置されていた。教師だけでは足りず、不参加の生徒も混じっていた。
治鞍橋に向かって土手を走っていると一人のスタッフが立っていた。同じクラスの湯原こずえだ。こいつ、参加してないんだなと思っていると湯原も優斗に気づいた。
「あ、斎木君だ。がんばって!」
ああと軽く手をあげて応えた優斗に湯原が手に持っていたものを差し出してきた。湯原を追い越しざま受け取ったものはひとつのレモンだった。なんだこれと訝しがる優斗の背中に「それ、食べてね」と湯原の声が追いかけてきた。振り向かずに手をあげながらサンキューと答えると、走る速度を速めた。
優斗は、走りながらすっぱいだろうなと少しレモンをかじってみた。ところが、すっぱくない。むしろ、渇いた喉がよりレモンを欲した。レモンの果汁が喉を通る心地よさ。優斗は皮ごとむしゃむしゃと頬張った。果汁が口の端からこぼれると少し染みた。
優斗は、元気をもらった気がしてそのまま第2中継点に到着できた。ここから折り返してきた道をまた走って行かなければならない。
これからが長いのだが、中継点でカードに判を押してもらうとそのまま走りをやめて歩き出してしまった。とにかく疲れた。
とりあえず目標の10キロ地点までは走ることができたのだ。自分で自分を褒めてやりたかった。
さて、本日取り上げるアルバムは、もんた&ブラザーズの『Act 1』(1980年)である。
しばらく和製ポップスを続けてきたのでここらで趣向を変えようと思ったが、もう少し続けることにした。
でも、これは中古レコードではなく新品のCDである(笑)。しかも、まだ最近購入したという代物。なので、過去に取り上げていたのではという自分の疑念は勘違いに相違ない。
とにかく、もんたさん、「ダンシング・オールナイト」が大ヒットした。当時、おじさんもよくカラオケで歌ったものである(笑)。
ハスキーにもほどがあるくらいに激しく擦れたもんたさんの声であるが、それでいてちゃんと出ているからすごい。
このアルバム『Act 1』は、もんた&ブラザーズのファース・トアルバムで、作詞はいろいろな方で作曲はすべてもんたさんによる。もちろん、「ダンシング・オールナイト」も入っているが、この曲、ちょっと昭和歌謡っぽい。
他にはロック調の曲やレゲー調、ジャジーな曲もあってバラエティ豊かな楽曲群である。激しい曲が真骨頂なのかも知れないが、特にもんたさんのバラードは絶品である。
その後、ソロ活動したり、再結成したりしたようであるが、一昨年に亡くなられた。
今、音量を上げながら聴いていると、改めてもんたさんの魅力が再確認できる。
ロッドの歌う曲にちょっと似てるけど
