盛り上がったプロレス・ショーが終わっても観客はほとんど退けなかった。最後に応援団の演技があるからだろうか、いや、これしか残っていないのだからこれを見たさに残っているとしか考えられない。

 当の優斗自身、それほどまで団の演技を見たいのかと半信半疑である。

 とにかく、緞帳の降りたステージに整列して出番を待つ。やがて、プロレス・ショーを終え、着替えた団長が汗を拭きながらやってきた。

副団長も当然のごとくバンドの演奏を終えて、既にステージに上がっていたが、優斗とはあえて目を合わさないようにしているように思えた。

「さあ、俺たちの演技で文化祭の最後を飾るぞ。俺たち3年もこれが最後の活動だ。元気に締めくくろうぜ!」団長が全員にはっぱをかけると、「押忍!」と団員も呼応する。一気に団結力が固まった気がした。

スルスルと緞帳が上がる。ステージから満席の会場が見渡せる。ステージ上から見る景色は初めてだ。案外、一人一人の顔もはっきり識別できるものだ。話す声も聞きとれる。客席全員の目が今正に自分たちだけに注がれている。優斗は意外に緊張していなかった。そこにはキツイ練習にも耐えてきたという自負があるからだ。

 

 団長が手を上げる。最初は校歌だ。吹奏楽の伴奏はない。イントロはすべて優斗が任されていた。イントロと言っても最後の4章節を歌ってリードするだけである。

優斗は思いっきり声を張り上げた。「かわいいね」客席から女子の声がする。優斗は声の方をちらっと見たが誰が発したかはわからない。

イントロに続いて、全員で一番の冒頭から歌い始める。手拍子しながら大声で歌うのである。各自、自分のキーで歌うものだからハモっているようにも聴こえる。高い声や低い声、濁声もいれば、些か音程の悪い奴もいる。3年もリーダーを除いて全員が1年と並んで歌っているのだ。思えば、3年と一緒に歌うのは7月の野球の応援以来だ。

 宮元が打つ大太鼓が腹に響く。団員たちの手拍子が段々会場に移って、いつの間にか観客も一緒になって手拍子を始めていた。客席と一体となって校歌が会場に響き渡る。こんな風に校歌を歌うのは初めてだった。感動的でさえある。優斗は胸が熱くなるのを覚えた。

 校歌が終ると第1応援歌、第2応援歌と続き、それぞれリーダーも替わる。

 リーダーとして最後に登場したのは、留萌楓だ。袴姿の留萌が登場すると「きゃー」と女子の歓声が上がり、会場はざわついた。

「東野高校音頭」と呼ばれる演技が彼の唯一の担当であった。応援団の花形であり、これを見たさにここにきている観客が少なくない。これは後で知った。

 ステージを動き回りながら凛々しく華麗な舞のように踊る留萌、その軽やかな動きと台詞に呼応しながら声をあげ、盛り上げていく優斗たち。そして、エンディングを迎えると拍手喝采が巻き起こったのである。大勢の人から喝さいを浴びるということがこれほどまでに心地よいものなのか。応援団を続けてきてよかったと優斗が初めて思えた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、TINNAの『LONG DISTANCE』(1978年)である。

 



過去にはベスト盤CD を紹介したことがあるが、今回は中古レコード・シリーズ第5弾としてファースト・アルバムを取り上げてみた。

 

TINNAは、1970年代前半に惣領泰則をリーダーとしてアメリカで活動したバンド「ブラウン・ライス」のヴォーカリストだった惣領智子と高橋真理子(高橋真梨子とは別人)が結成した女性デュオである。

 

惣領智子はバンドが解散した後に活動拠点をアメリカから日本に移してソロとして先に活動していたが、1978年公開のイタリア映画「ポール・ポジション」の日本独自企画のサウンド・トラックを惣領泰則が制作する為、高橋真理子とデュオを組む事となったとのことである。

 

で、そのサウンド・トラック盤のあとに正式なファースト・アルバムとしてリリースされたものがこれである。惣領智子の爽やかなボーカルに高橋真理子のソウルフルなボーカルが加わり、良い具合に化学反応を起こしている。

 

作曲・編曲は惣領泰則がすべて手掛けているが、作詞は惣領智子に及川恒平や阿久悠の名があるところも面白い。

 

サウンドは、一言で言えばシティ・ポップス系だが、曲調は中には歌謡曲っぽいのもあったりして、当時、どのあたりを目指していたのかはわからない。それでも、二人の織り成すハーモニーと清涼感がたまらない。