優斗が次に向かったのは体育館であった。体育館の中は、暗幕が引かれ、ほぼほぼ満席状態だった。

 ちょうど、フォーク・クソング同好会の3年のグループが出演していた。女子一人と男子二人のグループでピーター・ポール&マリーのカバーを歌っていた。さすがにギターも上手いし、ハーモニーも様になっている。

 優斗も応援団にさえ入っていなければ、今頃はこんな風に大勢の生徒の前で自分の歌を披露することができたのにと羨ましく思った。

 

 そうこうしているうちにフォーク・ソング同好会の出番が終わると団長らが出演する「プロレス・ショー」である。これを見逃すわけにはいかない。

 文化祭のイベントにはクラス単位や部活のほかにも有志で参加することができた。公序良俗に反しない限り、実行委員会が認めれば出演の枠や会場の割振りをしてくれるのである。

 口コミで広がったのか、いつの間にか観客が膨れ上がってきて、立ち見の生徒や来場者まででていた。優斗は客席を見渡すとなんだかワクワクしてきた。

 いよいよ始まりである。三方をロープで囲われた特性「リング」がステージに設置されると、会場はざわざわしてきた。

 実況放送席には、アナウンサーらしき人物と解説者らしき者が陣取っている。

「いよいよやってきましたね。」

「この組み合わせはなかなか見られないですからね。楽しみですね」誰かの物まねをしているようだが誰かはよくわからない。むしろ、カミカミの解説が失笑を誘っている。

やがて、リング・アナウンサーがマイクを持って登場してきた。

「本日のメーン・エベント~30分1本勝負~」

「赤コーナー、ミル・マスカラー!」

 ロープを飛び越えて颯爽と登場したのは、派手な覆面をした小柄なレスラーだ。おそらく、あれが原田部長だ。体格を見ただけでわかる。覆面レスラーが登場しただけで、場内から歓声と笑い声が混在して巻き起こった。

「青コーナー、ジャイアント・バーボー!」

こちらから登場したのは大きめの黒の海パンを履いた大柄なレスラーで、のっそりとロープを待たごうとしたが足が届かずこけそうになる。額に手を当てながら「アップー」と言うと場内から爆笑が起こった。

 優斗もつられて大笑いしてしまう。

 花束贈呈では、制服姿の女子が両レスラーに花束を手渡す。すると、受け取った花束でマスカラーがいきなりバーボーに殴りつけてきた。よくあるベタなシーンである。

 怯んだバーボーをロープに振ると、ここで試合開始の鐘が鳴った。ロープの反動でよろけてきたバーボーにマスカラーのドロップ・キックが綺麗に決まる。練習の「成果」がきっちり現れた「見事」な技だ。

 マットに倒れ込んだバーボーにボディ・プレスをお見舞いするとそのまま早くもフォールのカウントを迫る。

「ワン、ツー」でバーボーがマスカラーを跳ね返す。なかばマスカラーが自ら飛び跳ねたようにも見える。そのように見せようとしているとすれば計算通り、そうでないにしても場内の笑いを誘う。

 バーボーは起き上がると反撃開始だ。マスカラーの頭を持つといきなり脳天唐竹割りを食らわす。すかさずヘッドロックからのココナッツ・クラッシュが炸裂すると、マスカラーがもんどりうって転がった。さらにロープに振ると16文キックならぬフロント・ハイキックだ。

そのままフォールかと思いきや、動きの緩慢なバーボーにマスカラーが急所蹴りの反則技だ。「アッポー」とうずくまるバーボー。さらにキックの応酬。それでもマットに倒れぬバーボーに対して、ジャーマン・スープレックス・ホールドの大技を繰り出そうとするがバーボーも抵抗して身体をひねりながら逃れようとする。

 見ていると二人で何やら言葉を交わしながら息を揃えて技を繰り出しているのがわかる。

それもそうだ、本気でやっていたら大怪我をしかねない。予めストーリーも考えられているのだろう。ある意味、「本物」のプロレスを見ているのと同じ気分であった。

 ステージでは、とうとう小柄なマスカラーが「せーの」の掛け声と共にバーボーを後ろにダイナミックに投げ飛ばしたのだった。フラフラになりながらもフォールを試みるも、カウント・ツーで跳ね除けるバーボー。

 今度は、マスカラーの腕をもってロープに振ると、反動で向かってくるマスカラーに自らジャンプしてネックブリーカー・ドロップだ。今度は、すばやく脚をもってフォールに持ち込むと、カウント・スリー。バーボーの逆転勝利だ。場内は拍手と大歓声で大盛り上がりである。

 最後に二人が握手して互いの健闘を讃えあうように両手を高々と上げると場内は改めて拍手喝采の嵐だ。

 こんなに本格的なプロレス技を繰り出し、しかもこれほど盛り上がるとは優斗は思っていなかった。

普段から怖さと面白さを併せ持っている団長であるがここまでお茶目だったとはな。応援団としての締めの演技はこれからであるが、個人的な参加でもこうやって高校生活をエンジョイしている姿を見るにつけ、団長を誇らしくとさえ思える優斗であった。

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、石川セリの『星くずの街で』(1981年)である。

 

 

 

 

 個性的な声が魅力的な石川セリ。セカンド・アルバムの『ときどき私は』(1976年)は、リアルタイムで聴いていたので、今回は中古レコード・シリーズの第4弾として4作目のアルバムをとりあげた。

 

中村治雄(パンタ)、ユーミン、岩沢二弓、矢野誠、あがた森魚、杉真理、大貫妙子、矢野顕子など多彩な作曲陣の曲を取り上げているが、どれもポップな楽曲で石川セリの世界を作っている。

 

自ら作詞した曲も2曲ある。


パンタといえば、あの頭脳警察?