文化祭を数日後に控えたある日、練習が終わると一年団員は団長から呼び止められた。
武道場に集合を命じられた一年団員は何が始まるのか些か緊張気味だった。
遅れて入ってきたのは団長一人だった。
「これから、プロレスの練習をするから少し付き合ってくれないかな?」いつになく神妙な面持ちで口を開いた。
「はあ?」一年を代表するように峰山が訊いた。
「はあ?じゃねえよ。練習の相手をしろってことだよ!」今度は高圧的な態度だ。
「そこへ一列に並べ!これからドロップ・キックするから、そこに立っててキックを受けるんだぞ」
(そんな無茶な)
「いいか、避けるんじゃねえぞ」というと、いきなりジャンプをして関田の胸を両足で蹴り飛ばしたのである。
「いてえ!」と叫びながら後ろにころがる関田。すると、すかさず隣の丸谷にキックを浴びせる。次は、少し助走してきて峰山へキックを浴びせた。皆、次々に胸を押さえながら畳の上でのけぞっていた。
次は、優斗の番だ。団長がジャンプした瞬間、反射的に後ろに下がり衝撃を緩和しようとしてしまった。必然的に団長は畳の上に背中を打ち付け、「うう!」と低い悲鳴を上げる。
「てめえ、避けたな!」
「あ、すみません、無意識に身体が動いちゃって」
それを見て、団員たちの間には笑いが起こっていた。
「お前にはこれだ」腹いせとばかりに団長が優斗にコブラツイストを仕掛けてきた。すると、優斗は脱力して体重を団長に委ねる姿勢を取ったところ、身体がするっと抜けることができた。優斗は、中学校時代に友人とプロレス技を掛け合ってよくふざけていたので、その「成果」がこんなところで発揮できたのかなと思った。
団長は、「なかなかやるな」と苦笑いをすると、いきなり小柄な東をボディ・スラムする。最後は、大人しい田村が「四の字固め」の餌食になった。
無茶なことするなと思う一方でどこか憎み切れない可笑しさのある団長の行為に妙に親近感を覚える優斗であった。
さて、本日取り上げるアルバムは、高木麻早の『高木麻早』(1973年)である。
高木麻早は、1973年の第5回ヤマハポップコンで最優秀歌唱賞に選ばれ、「一人ぼっちの部屋」でデヴューしたシンガー・ソング・ライターである。
これは、そんな彼女のデヴュー曲を含むファースト・アルバムである。
中古レコード・シリーズ第2弾ということで、当時はあまり興味がなくて忘れていたけれど中古レコード・ショップで見かけて買ってみたものである。
デヴュー曲とセカンド・シングルの「思い出が多すぎて」までは知っていたけれど、もちろんその2曲も含め、アルバム全体を聴いてみると、意外な良さを発見し嬉しくなった。
震えるような少し憂いを含みながらも美しく爽やかな歌声に癒されるのである。
