※投稿後、少し、表現を修正しましたが内容は変わっていません。

 

 

 

 今更、練習には出たくはないが、日中は半ば退屈であった。仲間が練習をしている間は炊事と掃除くらいでやることがなく、それでいて家には帰してもらえない。

 外を見れば、今日も入道雲が早くからもくもくと青い空に盛り上がってきていた。いかにも「夏だぞ!」と主張しているような厚かましい空だ。

それまでは、ここでため息の一つでもついていた優斗であったが今日は違った。今日で合宿が終わるのだ。それだけで気分は晴れやかだった。

 

 合宿最終日の午後は、ランニングのメニューが組まれていた。秋の競歩大会に向けて、第2グラウンドまでの5キロの道のりを往復してくるのである。

「斎木、おまえ、もう走れるだろう?」いきなり、藤木副団長が訊いてきた。

「え?」練習には出なくていいと言われていたため、優斗は返事に戸惑った。

「まあ、止めておけ。ここまできて何かあったらまずいからな。」どこか蔑んだような眼を団長が向けてきた。

 恐いところもあるが面白くて面倒みのある優しい団長だと思い込んでいたが、ここ数日、優斗に対する態度が冷たく感じていた。

 

「よし、行くぞ!」団長の号令とともに12名の団員が列を組んで走り出した。結局、走らなくてもいいことにはなったが優斗は自転車で伴走するように指示された。

 途中、大きな声をあげたり、校歌を歌いながら走る。優斗は、恥ずかしさと後ろめたさが混在した複雑な気持ちで自転車をこいでいた。

「斎木はいいよなあ」と、走りながらしつこく優斗をなじっていた東もさすがに疲れてきたのか、途中から無言になった。

 ゆっくりとであるが一団は第2グラウンドに到着した。少し休むと、すぐに復路を走りだした。長距離が苦手な優斗はここでも「命拾い」をしたのであるが、競歩大会を考えれば走っておいた方がよかったのかもしれないかなとも思った。

それでも、まだ先のことである。とりあえずは、合宿が終わることが単純に嬉しかった。ただ、こんな気持ちで団を続けていて意味はあるのか。

 特に仲が良くなったわけでもない一年団員たち、同じクラスの小沢翔平でさえ上辺だけ合わせているに過ぎないのだ。

 どこで借りたか誰のものかもわからないママチャリは何かが引っかかったようなキーキーという異音がしている。優斗は、重いペダルを必死に踏みながら、自分自身に問いかけていた。

 

 いつのまにか、積乱雲を夕陽が赤く染めていた。遠くで雷鳴はしていたものの雷雨が襲ってくることはなかった。

 合宿所の片付けが終わると優斗たちはやっと家路につくことができた。4泊5日にわたる夏合宿が終わったのだ。

「やっと終わったなあ。」

 一年生のリーダー格である峰山豊が歩きながら大きな伸びをした。

「終わったね。」関田和俊が同調する。

「しかし、疲れたよなあ。」小沢が満足感に浸りながらつぶやく。

 峰山と小沢、東陸に丸田一郎、この4人は同じ中学校から同じ高校に入学し、しかも同じ応援部に入部していた。それだけに互いのことは良く知っていて、仲も良ければ喧嘩もする。

 どれだけつるんでいれば気が済むのか、優斗はそのあたりの感覚が理解できないでいた。

 優斗と同じ中学校からも5人入学していたがそれぞれ別なクラスになっていて、通学も部活も別々であったし、その他のことにおいても互いに連絡を取り合うことはほとんどなかった。それが「普通」なのだろうと思っていた。

 4人とそれに関田が加わり、相変わらずくだらない話で盛り上がりながら駅までの道を歩いている。もう一人の田村徹は大人しい性格で普段から無口だった。優斗は、どちらかと言えば田村とは気が合った。

 手に持っていたコーラを飲み干した峰山がふと優斗に話しかけてきた。

「なあ、斎木よ。団は辞めないよな?」

「え?なんだよ、唐突に」

「なんか、そんな気がしたからさ」

「辞めないよ」と答えた後に、少し間をおいてから「まだね」と付け加え、優斗は見透かされた心情を隠すかのように笑った。

 2年生の団員がいないため3年生が卒業してしまえば自分たちの天下だと思う一方で、果たしてこのメンバーと団を担っていけるのだろうかという不安もある。良くも悪くも今はこのメンバーしかいないし、これから新たに入部してくる者がいるとも思えない。

 

 優斗が笑ったあと、もう誰も話をしなくなっていた。

「斎木君、辞めないでよ。」一番後ろを歩いていた田村がぼそっと話しかけてきた。

「大丈夫だよ。」優斗は、田村の顔を見ずに答えた。

 駅に着くとそこで解散だ。

「じゃあな」峰山が改めて優斗の顔を窺った。「ああ」優斗は軽く手をあげて応えるだけだった。

 優斗は、団員の中では一番遠くから通っている。ひとりホームに立つと、夕闇に縁取られた街並みが見えた。家電量販店の煌々とした灯り、居酒屋の汚れた看板、キャバレーのケバいネオン、普段は雑然とした風景が何かを語りかけてくる。

 優斗は、滑り込んできた電車を何本もやり過ごし、生ぬるい風に吹かれながらいつまでもホームに佇んでいた。

 

 

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、DOYLE BRAMHALL IIの『jellycream』(1999年)である。

 

 

 

 

 ドイルの作品を取り上げるのは2回目であるが、本作はセカンド・アルバムである。

 

 ドイルと言えば、近年、エリック・クラプトンのツアーに同行したり、レコーディングしたりですっかり名が知れているが、ソロともなるとどんな曲を演奏するのだろうと興味深いところではないだろうか。

 

 本作は、エリック・クラプトン&B.B.キングのアルバムで取り上げられた「I Wanna Be」や「Marry You」に代表されるような骨太なブルー・ロックが中心である。

 

 また、「Away We Go Away」や「Close To Heaven」などのメランコリックなメロディもかけて、ソング・ライターとしての才能と魅力を併せ持っている。

 

 もちろん、どの曲も渋くて無駄のないギター・プレイが光っている。