今日の夕飯のおかずは、コロッケだった。作ってくれたのは、先輩と同じクラスの女子であることは昼食の時に見かけて知っていた。

すると、厨房の中からもう一人男が出てきた。お昼の時には気づかなかったが、その人も優斗たちに食事を作ってくれているらしい。

 紹介もなく誰だろうと思っていると、どうやら同じ応援部の3年の大山先輩とのことである。この人がそうなのか。もう一人、先輩がいるとは聞いていたが練習には一度も顔を出したことがなかった。やっと、知ることができた。優斗も他の一年も初対面である。なのに、紹介がないのは何故なんだろうと不思議に思っていた。

 聞くところによると、持病を持っていて体も弱く、それなのに団は辞めずに籍だけ置いているらしかった。合宿所には泊まらずに、毎日このために通ってきているとのことだった。普段は、声楽部で活動しているとのことである。声楽部と言えば、湯原こずえのいる倶楽部である。あとで湯原から詳細を訊いてみようと優斗は思った。

 

 学校には風呂がない。そのため、練習が終わるとプールのシャワー室を特別に借りて汗を流す。シャワーを浴びて、夕飯を済ますと就寝までやることがない。テレビがあるわけでもなく、3年と同じ部屋では1年生通しで雑談をすることも気が引ける。寝そべって漫画か雑誌を読むくらいしかやることがない。

 すると、突然、団長が声をかけてきた。

「おお、斎木。おまえ、歌、唄えるんだろう?」

「は?」突然のことで、なんと答えていいか優斗は戸惑った。

「何か、唄ってみろ」

「え? 歌ですか? いやあ・・・」

「おまえ、ギターも弾けるらしいじゃないか?ギターはないから、伴奏なしでいいよ。」

「急に言われても・・・」

「何かあるだろ?」

 言い訳してもなかなか諦めない団長であった。

 優斗は、しばらく考えたが適当な曲が思いつかない。あ、そうだと、お昼に食べたカレーライスを思い出し、おもむろに歌いだしたのは遠藤賢司の「カレーライス」だった。

 

 君も猫もみんな みんな好きだよカレーライスが

 君はとんとん じゃがいも人参を切って 涙を浮かべて玉ねぎを切って

 バカだなバカだな ついでに自分の手も切って

 僕は座ってギターを弾いてるよ カレーライス

 

 歌っている途中でみんなシラケているのがわかった優斗は、とりあえず一番だけ歌って止めた。

「なんだ、その歌は? 適当に歌ってるんか? バカにしてるんじゃねえぞ!」と団長が呆れ顔をする。

「いえいえ、遠藤賢司という人のちゃんとした歌です。」と優斗は慌てる。

すると、3年の宮元清が前に出てきた。

「歌ってのはな、こういう歌を言うんだよ!」と、おもむろに歌い出した。

 

 こうべ~ 泣いてどうなるのか~

 捨てられたわが身が みじめになるだけ~

 

 クール・ファイブの「そして、神戸」ではないか。優斗もテレビの歌謡番組で知っている曲ではあったが、高校生が歌うような曲ではないよなと唖然とした顔をした。

他の一年は、にやにやしているし、3年もくすくす笑っている者もいる。ここは笑っていい場面なのか。

「いいねえ、あいかわらずいい声してるね~。こういう歌じゃなくちゃなあ」団長が優斗の顔を見る。すみませんと優斗は恐縮するしかなかった。

 宮元の歌は快調に2番に入っていた。

 既に真っ暗になっていたグラウンドに宮元の朗々とした声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、MARC BENNOの『MARC BENNO』(1970年)である。

 



 マーク・ベノのソロ・デヴュー作で、ブッカー・T・ジョーンズが全面的にサポートしているらしい。プリシラ&リタ・クーリッジ姉妹もバック・コーラスで参加していて、いい感じだ。

 

 ライ・クーダーも「Teach It To The Children」や「Hard Road」で演奏している。

 

 マークの歌は決して上手いとは言えないがバックの演奏と相まって実に味わい深い。

 次作の『Minnows』の方が有名であるが、本作もスワンピーで好きな作品である。