臨海学校二日目の朝を迎えた。

 今日も朝食後すぐに海に出た。早くも夏の雲が遠く水平線の彼方からモクモクと上空に盛り上がっていた。波は比較的穏やかだ。今日こそは波を乗り越えるんだと優斗は意を決していた。

 その甲斐あってか、何回目かのトライでどうにか波を乗り越えることができた。そのまま顔を出して平泳ぎを試みる。それでも、足が届かないと思うと慌ててUターンである。

 こんなことで、「遠泳」に参加できるのだろうか。優斗は、その後も必死で練習に取り組んだ。


 午後はリクレーションの時間である。こういう時間もないと生徒も飽きてしまうだろうという配慮からなのかもしれないが、体のいい引率教師の休憩時間ということも言えた。

 優斗たちは、ビーチ・バレーに興じたり、砂の土俵で相撲を取ったり、銘々にレクの時間を過ごした。

 最後には、クラス対抗の「すいか割り大会」が行われた。優斗のクラスは、小沢が率先して選手に名乗りを上げた。「率先躬行」が応援団の五訓の一つでもあったからだ。

 (まあ、ここは小沢に任せよう)

 別にこういうことに「率先躬行」せずともいいだろうと優斗は自分に言い聞かせた。

 結局、小沢は見事にすいかを割れず、最下位に沈んだ。だからといってどうってことはなく、みんな無事に西瓜にはありつけたのだ。

 

 二日目の日が暮れた。優斗たちは水平線に沈む夕日を眺める間もなく宿に戻った。

「今日も疲れたなあ。」

 蚊帳の中で、横になりながら橋口がつぶやいた。

「疲れたね。明日は遠泳だな・・・俺、大丈夫かな?不安だなあ・・」

 優斗は、午後のレクの時間ももっと練習していたかったのだ。

「大丈夫だよ。ボートがついてくるから、いつでも棄権できるらしいよ。だから、気楽に行ったらいいよ。」

「ああ、そうなんだ。駄目元で気楽にやってみるか。」

「そうだよ。俺も一緒について泳いでやるからよ。」

 優斗は、少し安心すると急に眠くなってきた。

「それよりも、優斗は誰が好きなの?」

「なんだよ、唐突に。」

「クラスの女子だよ。俺は大林がいいな。」

「大林か。可愛いよな。」

 優斗は、大林が好きだとは言わない。

「優斗は誰が好きなんだよ?」

「俺か? 大林もいいけど北村も好きだな。」

「北村か? あいつ、胸が小さいからな・・」

「そんなの関係ないよ。胸なら大林より湯原がいるじゃないか。」

「湯原か?でかいよな、あいつ・・」

 へらへらと笑いながら、いつの間にか疲れに任せて二人とも眠りについていた。

 

 夜中、耳元でブーンと蚊の泣く声が聞こえた。どうやら、蚊帳の中に蚊が入り込んでいたようだ。

(蚊かよ。眠いのに煩いな)

 日中の練習でかなり疲れていた優斗はそれでも起きない。いつの間にか左足の小指を刺されていた。海辺の蚊はデカい。そんなやつに刺されたらたまらない。しかも、よりによって足の小指とは一段と痒いではないか。

 優斗は痒くてたまらないが疲れていて眠い。起き上がることもめんどくさく、あまりの痒さに寝ながら右足のかかとで思いっきり擦っていた。

 痒くて痒くて何度も擦っているうちに、指の皮がべりっと剥けてしまった。今度はヒリヒリと痛む。皮が剥けても痒い。それでも、眠さが勝っていつの間にかまた眠ってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、ROD STEWARTの『Atlantic Crossing』(1975年)である。

 



 ロッドが、トム・ダウトをプロデューサーに迎え本格的にアメリカ進出を図った作品で、スタジオ・アルバムとしては6作目にあたる。

 

 レコード会社もワーナーに移籍し、レコーディングはブッカー・T&ザ・MG'sのメンバー等、アメリカ人のスタジオ・ミュージシャンが多数参加している。

 

 そのせいか、1曲目の「Three Time Loser」を聴いた瞬間に、これまでのアルバムにはなかった乾いたサウンドだなと感じた。

 

 ファンとしては賛否があったようであるが(実は私も過去に渡米前の方が好きだと書いていた)、これをきっかけに世界的なスーパースターに駆け上っていくのである。

 

 渡米前の作品の方が好きだと言いながら収録曲はどれも好きだから、ロッドの個人的に好きなアルバムとしては上位に位置する。

 

 浦和レッズの応援歌に使用されている「Sailing」、DOBIE GRAYの「Drift Away」、「I Don't Want to Talk About It」、「It's Not the Spotlight」など、バラードもロッドの真骨頂である。

バックを務めているSTEVE CROPPERやJESSE Ed DAVISも曲づくりに参加している。