全国高等学校野球選手権の県大会、いわゆる地区予選を間近に控え、優斗の応援団も練習に熱が入ってきた。
ある日のこと、いつものように屋上で練習をしていると、突然、3年がピッと「気をつけ」をしたかと思うと屋上の入り口に向かって「ちわっす!」とあいさつをしたので、優斗たち一年はびっくりした。
「先輩だ、あいさつしろ!」
団長の言葉に優斗たちも慌ててその人物にあいさつをした。
「おお。元気でやっちょるかい?」
「押忍!」
団長の言う「先輩」とは団のOBのことで、3年生の2学年上の先輩である。当時、団長を務めていた赤熊登という人物で、今も大学の応援団に所属する現役バリバリの団員であった。
いつになく3年が緊張しているのを見ると、優斗はどこか滑稽に思えた。特に一年の前では虚勢を張っているようにしか見えない奥近先輩がびびっているのを優斗は心の中で面白がっていた。
「おい、奥近!演技は上手くなったか?」
案の定、奥近先輩が指名された。
「押忍!」
心なしか奥近先輩の声が裏返っている。
「そしたら、お前がリーダーやってみろ!」
「押忍!」
「一年は、陰で休んでろ。おら、3年、並べ!」
パタパタといつになく機敏に動く先輩たち・・
(さ、面白くなってきたぞ)
心の中でそうつぶやいたのは優斗だけではなかった。
しばらくすると赤熊は奥近へのダメ出しを始めた。
「相変わらず、なっとらんなあ・・そんなことじゃあ、一年に笑われるぞ、なあ、一年?」
突然こちらに矛先が回ってきて優斗たちは慌てた。笑うこともできず、赤熊の言葉を否定することもできない。
「罰として、腕立て50回だ。お前らもやれ!」
3年は全員腕立て伏せ50回を命ぜられた。その後も何かと難癖をつけては奥近をしごいた。最初は面白がっていた優斗たちも段々赤熊が怖くなってきた。今度は、俺たちの番なのかな、そうじゃなくてもOBが帰れば腹いせに3年から自分たちがしごかれるのではないのか。どちらに転んでも嫌だな。不安になる優斗であった。
そうこうしているうちに赤熊の「指導」が終わった。
「今日は、この辺にしておく。地区大会は見に行くからな。無様な応援するんじゃねえぞ。」
「押忍!ありがとうございました!」
OBを見送ると、3年生たちはへとへととコンクリートの床に座り込み、ため息をつくばかりだった。屋上にはつかの間の静寂が戻った。階下のグラウンドからは、野球部らしい運動部員の掛け声だけが響いてくる。優斗たちは、背中に嫌な汗をかいていた。
一年の前でしごかれた3年生たちはさすがにばつが悪くなったのか、しばらくしてその日の練習を終わらせたのだが、翌日からまた練習に名を借りた奥近の陰湿ないじわるが始まったのである。
曲は、THE ROLLING STONESの「If You
Can't Rock Me」で、アルバムは『IT’S ONLY ROCK’N ROLL』(1974年)である。
初めてこのアルバムを聴いたときは何か違和感があったが、その理由がこれまでのホーン・セクションが排除されていたことであることに気づいたのは少し経ってからであった(笑)。
音質もどこか籠ったような感じでそれまでのサウンドとは少し違った気がして、ストーンズらしくないなと思ったものである。
改めて聴いてみると、相変わらずの乗りのいいギター・リフで始まり、思わずご機嫌になる。
「たかがロックン・ロール、されどロックン・ロール」
確かそんなようなキャッチ・コピーが使われていたような気がするが、記憶違いだったらごめんなさい。
ミック・テイラー在籍の最後のアルバムでもある。