優斗には、富澤という中学校時代の友人がいた。中学校時代は仲が良くて、いつも二人でふざけていたが、別々な高校に決まってからはほとんど遊ばなくなった。富澤は、家業の材木店を継ぐために商業高校に進んだ。普段から家の手伝いをしていたので、中学生の時からがたいが良かった。

そんな富澤から久しぶりに誘いの電話があった。

「優斗、久しぶりだな。今、何してる?」

「別に何もしてないよ。」

「だったら、うちに遊びに来ないか? いいこと教えてやるよ。」

「なに?」

「電話じゃ難しいから、とりあえず、暇なら来いよ。」

「わかった。これから行くよ。」

久しぶりの再会である。数か月前までは馬鹿をしていたのに、少しよそよそしい口調になってしまったのは優斗の方だった。

 

梅雨入りしたのに今年はろくに雨が降っていない。既に真夏のような暑さだ。

自転車を10分ほど漕ぐと富澤材木店の看板が見えてきた。自転車を降りるとどっと汗が吹きだしてくる。

母屋の手前に倉庫があって、すぐに建築材として使えそうに綺麗に製材された材木が何本もねかせてあった。木材からフィトンチッドという物質が放出されるらしく、独特の匂いが立ち込めていた。そんな倉庫の中の4畳半程度のスペースを間仕切りで仕切った場所が富澤の部屋だった。前にも一度遊びに来たことがあったが、変わった様子はなかった。

「よお、入れよ。」

富澤が顔を出して部屋に促した。この前まで、優斗と同じように丸刈りだったが、今ではミュージシャンのように髪を伸ばしていて暑苦しい。実は、優斗も髪を伸ばしたかったのだが、応援団に入ってしまったため今でも短髪のままだ。

「久しぶり。お邪魔します。」

「おお、元気そうじゃないか。」

「うん、まあな。」

すると、すぐに富澤の母親がコーラを出してきてくれた。

「いらっしゃい、久しぶりね。」

「ご無沙汰してます。」

「優斗君、応援団に入ったんだって?」

「ええ、まあ」

「そう、意外だわ。頑張ってる?」

「はい、もうじき野球の予選会があるんで・・・」

「そう、暑いから大変ね。まあ、ゆっくりしてってね。」

「はい、ありがとうございます。」

優斗は、母親の姿が見えなくなった瞬間、コーラの入ったグラスを一気に飲み干した。そこへ、富澤がまたコーラを注ぐ。褐色の泡を見ながら優斗が口を開く。

「ところで、教えてやるって言ってたの、何?」

「これだよ、これ!」

そう言いながら、富澤が出してきたのはグランド・ファンク・レイルロードというグループの「孤独の叫び」というシングル・レコードであった。

「へえ、何それ?」

「知らないの? これがいいんだよ。今、聴かせてやるよ。」

富澤が安っぽいミニコンポのプレイヤーにレコードを置き、針を落とした。聴こえてきたのは、優斗がこれまで聴いたことのない世界の楽曲であった。

 

3ピースバンドだというのに何という迫力だ。あまり上手そうではないが、ファズを聴かせたギターに甲高く伸びのあるボーカルがいいな。シンプルで腹に響くようなベースと迫力あるドラム。

洋楽と言えば、せいぜいビートルズやその他のポップスくらいで、それまでの優斗には馴染みのない音楽だった。なんだかよくわからないが聴いていて気持ちが昂るというか、大人に近づいたようなこれまでに感じたことのない感覚でじっくりと聴き入ってしまった。

しかも、シングルなのになんて長い曲だ。組曲みたいに曲調が変わるような、これまで聴いたことのない音楽に優斗は酔いしれた。

優斗は、富澤にせがんで3回もかけてもらった。さすがに紹介した富澤も苦笑せざるを得ない。

「いいね、グランド・ファンク」

「いいだろう?」

すると、そこへ富澤の父親が顔を出した。

「おい、まだやってねえのか?」

「ああ、今やるよ。」

富澤が煩そうに答える。

「悪いな優斗、呼び出しておいて」

「ああ、いいよいいよ。」

「レコード貸してやろうか?」

「ううん、いいよ。また来るよ。」

 そう言って、優斗は興奮が冷め止まないうちに富澤の家を後にした。

 

 程なく、優斗はグランド・ファンク・レイルロードの2枚組ライヴ・アルバムを手にしていた。シングルを買うより、その曲を含んだアルバムを購入した方が得だと考えていたからだ。  

しかも、ロックはライヴに限るなどと、すっかりロック通になった気分である。

優斗は、親に何度も怒られながらも大音量で擦り切れるくらいに聴きこんだ。「Are You Ready」から始まる半端ない臨場感と迫力ある演奏、オーディエンスの反応、正にロックの名盤だ。

それからというもの、優斗はグランド・ファンクに限らず、他のいろいろなアーティストにも興味を持つようになっていくのだった。

 

 

 

 

 

曲は、GRAND FUNK RAILRORDの「Inside Looking Out」で、アルバムは『Grand Funk』(1969年)である。

 





 ライヴは迫力あっていいが、スタジオ録音もこれはまた趣が変わっていいのだ。

 



 グランド・ファンクのアルバムは、「Live Album」以降「Phenix」まではレコードで、その他はほぼほぼCDで持っている。

 

 それほど、好きなんですわ・・