優斗は、クラスの誰とでも気軽に言葉を交わせるようになるのに心配したほど時間はかからなかった。数日も経てば、皆と級友になれる。

 始めは出身中学校や居住地の話題から入る。優斗は、自分の居住地を説明するのに常に苦労していた。町名を言っても誰も知らない。東京志向が強い時代だった。誰しもが東京に向いて生きていた。自分の居住地から東京までの都市であれば憶えやすいが、その逆は関心も薄れる。まして、JRの駅がないことは致命的だった。優斗は、仕方なく、知名度のある都市の名をあげ、そこからどっち方面という説明をしていたのだった。

 

そんな中、優斗の隣の市から通っている池畑という男子がいた。あるとき、休み時間になると、突然、その池畑が優斗を指して教室中に響くような大きな声で叫んだ。

「こいつのところはよ、去年まで村だったんだぜ」

何を言い出すのかと、一瞬、優斗は驚きの顔を見せる。

確かにそのとおりだが、それが何かと思った。突然のことでもあり、しかもまだ笑って流せるほど仲良くもなっていない。どのような顔をすればいいのか優斗は途惑った。

「よしなよ!」と嗜めたのは、池畑と同じ中学校出身だという大林という女子だった。ショートカットで、濃い眉が意志の強さを現している。

まるでいじめっ子のガキ大将みたいな池畑の幼稚な振る舞いにどういう態度で接したらよいのか優斗は途惑うしかなかった。これまで、そのような経験がなかったからだ。小学校から中学校までずっと優等生で、毎年、クラス委員を務めてきた優斗だった。少なくとも住んでいる町のことでマウントをとろうとしたり、他人を蔑むようなことを発するような人間が同じクラスにいること、自分がそのようないじめにも似た行為の対象にされたことに少なからずショックを覚えたのだった。

それにしても、なぜ、自分がターゲットになったのか、何か池畑の気に障ることでもしたのだろうか、思いを巡らしても思い当たることがなかった。ただ、池畑という男が幼稚な人間だなとつくづくと思うだけだった。とりあえず、その場は、何も言い返さず苦笑してやり過ごしたが、こういう奴も同じクラスにいるということを改めて認識したのだった。

 

優斗には同じクラスの中に気になる女子が何人かできていた。大林加奈子もそのうちの一人であった。背はあまり高くなく、艶のある黒髪と綺麗な瞳が印象的な子である。池畑は、同じ出身校だということあってか、時々、大林のこともからかっていたので余計に目立つようになっていた。優斗は、その一件があってから大林加奈子を急速に意識するようになっていた。

 

 

 

 

 



曲は、BOBBY BLANDの「Somewhere Between Right & Wrong」で、アルバムは、『Years of Tears』(1993年)である。

 

BOBBYは4回目の登場になるが、それだけ好きだということである。

60代前半の頃のレコーディングであるが、相変わらずソウルフルなボーカルがたまらない。ブルースもいいが、特にバラードが絶品である。

マラコ・サウンドも心地よい。