大虎 @ 九品仏(東急大井町線) | CroquettePunchの “ 呑んでたまるか!”

大虎 @ 九品仏(東急大井町線)

この辺りまで来ると,自由が丘の喧噪がうたかたの夢のようだ.



《 大虎 》

一つだけお隣りの駅です.

だから静けさの陰影が際立つ.

この街は門前町としての気配がある.

九品仏浄真寺の森の静寂が闇が界隈をつつんでいる.



踏切りのすぐ脇に煌煌とともる紅い提灯が誘う.

表戸が少しだけ空いているのがいい.

常連さま方の談笑が聴こえ漏れるのがいい.



十分です,もう素敵過ぎまっせ,うっははは.

これだけの風流が揃っていて,暖簾くぐらぬ理由は見当たらぬ.

いつもそんな感じでここに寄る().





酒肴や酒類の取り揃えは過不足なく穏当です.

特記すべきも出色もないけど,街酒場はそれでいいんだよな.

肩肘張らず寛げる空気があればそれでいい,そう思う.



この付出し,茄子の煮浸しですね,いいねえ.

季節感も存分であり滋味の深い味わいがある.

これで常温の清酒をゆっくりと舐める.

内なる荒れた真情が次第に癒される,むははは.



常連の方とお店の方の “ 年季の入った ” 会話が実に興味深い.

「むかし渋谷によ,しぶしょくってのがあったよな,よく行ったなあ」

「東映行って帰りに渋食,ってのがデートコースだったな」

「確かあすこでトルコライスっていったっけ,チキンライスみたいなの」

「姉貴によく言われたよ,デートならしぶしょくよりいいとこ連れて行けって」

「あら,しぶしょくは上等だったわよ,近くに三平ってのあったわね」

「三平は新宿にもあったな,上野には聚落だよな」

当時の東京御三家食堂のお話をしておられます.

個人的にこの手の話は大好きなのです,むっふふふ.



しぶしょくは1960年代にあった渋谷食堂のことのようですね.

なんでもありの大食堂みたいな所だったそうな,行ってみたい.

渋谷三平はつい近年に惜しまれて閉店したよね(→).

新宿の三平はここのことじゃないかなあ(→).

上野聚落も残念ながら閉店しちゃいましたっけ.



そんな話をぼんやりと聴き,ぼんやりと思い,ぼんやりと呑る.

そうする内に気持ちが穏やかになってくる.

日常の煩悶から解き放たれた気持ちになってくる.

こういうのアレです,性格が暗いからです,ぶっはははは.



大井町線が通過するたび,店内にいい風が通る.

暖簾がゆれる,その風情に俺は嘉悦する,うわっはは.

何がいいのかと言われても困ります,その境涯がいいんです.



そうだった,ここのお酒は多満(たま)自慢という銘柄です,うっひっひ.

名前聴いただけで元気になりませんか!ならない?

あ,そう...わっはは.



お品書きにね,ウインピーってあったんすよ.

で,うはは!ウインナーとピーマンの炒めです,なるほどね.

こういうベタな酒場センスは個人的に大好きです.



踏切りの遮断機が降りる,電鐘音が鳴る,警報ランプが明滅する.

大井町線が過ぎ去り遮断機が上がる,再び静寂がもどる.

このお店のまわりは時代が少しだけ古い,そう思う.