雪の降る寒い日だった。
店内は暖房が効いていて、外の寒さが嘘みたいに思えた。
私はいつものように買い物をし、レジに立った。
そのときはまだ、
このあと4000円をめぐる小さな事件が起きることを、わたしは知らなかった。
440円の買い物をして、
五千円札をだした。
ーーと、思っている。
1時間後。
別の店で支払いをしようと財布を開いた私は固まった。
あれ?千円札、少なくない?
あーーっ!さっきのお店でお釣り確認してへんやつや!
私は20分快速歩行し、元のお店に戻った。
勇気を出して、レジ前で神妙な顔をして事情を説明する。
店員さんは優しかった。
レジのお金を確認してくれる。
...合ってますね
副店長さんが登場し、
今度はレジカメラを確認することになった。
映ってるはずや。私の勇ましい五千円札が。
札を入れる瞬間の映像をアップにする。
しかし、現実は厳しかった。
カメラでは、札の種類は判別不能。
解像度の関係で札種は判別できませんが、千円札を入れるところに預かったお札を入れています
北里柴三郎ではなかった自信はある。
しかし、あれは誰やったんや。
英世か。それともーー梅子か。
救いはひとつ。
色だけは分かる。
ピンクっぽい。
津田梅子案件
津田梅子、無罪か有罪か
ciaoの脳内【証人喚問】
では証人、ピンクっぽいお札さん。あなたは五千円札ですか?
静粛に。
カメラは言うてます。色はピンクでした、って。これは偶然ですか?それとも、あなた津田梅子本人ですか?
証人、額面については”記憶にございません”とのことです。
は?じゃあ、私が今『ちゅ~るもらってへん気がする』って言ったら、現実には出してへんことになるんか!
...それは、おそらく別件です。
別件か…
ママ、どんまい!
とはいえ、
照明やカメラの色補正で、英世がピンク寄りに見えることもゼロではない。
ピンクやけど、グレーな案件。
日本の紙幣、色かぶりすぎ問題。
整理すると、こうだ。
レジ金:合ってる
カメラ:額面不明
※ ただし、色はピンク
私の記憶:五千円札
何度思い出しても、
私は五千円札を出したーー気がする。
映像付きで脳内再生される津田梅子はフルHD画質。
しかし、レジ金はピッタリ合っている。
証拠はない。
皆さん、これがキャッシュレス決済に慣れすぎた現代人の末路です。
お店側としては最大限の対応でしたし、
これ以上、変な客になってはいけません。
これは一瞬の認知エラー
人間の記憶は、実際にやったことよりも「やるつもりだったこと」を後から"やった記憶"として再生することがあるらしい。
私の脳が「五千円札を出した映像」を補完して作ってしまった?
プリペイドやQRコード決済に慣れて、
会計が操作になっていた。
ピッ→完了
このオートメーション化。
脳はサボる。
というか、最適化する。
レジで、
荷物を両手に、
立ったまま、
後ろに人が並んでる。
現金のときは少し意識を戻して、お釣りをその場で確認する
当たり前のようですが、ちゃんと気を付けよう
ママ、早くも認知症でしょうか…
ほな、ちゅ~るもらいたい放題やないか
いつもと同じ会計。
いつもと同じ動作。
ーーただひとつ違っていたのは、
この日、私の記憶があまりにも曖昧だったことだ。




