《前編》 より

 

【ヴォルフスブルク】
 僕が住んでいるヴォルフスブルクは自動車メーカー、フォルクスワーゲンの工場がある、いわゆる「企業城下町」。人口約12万のとても小さな街だ。僕の感覚では街で走っている車の9割はフォルクスワーゲン。(p.38)
     《参照》   『トルコのものさし日本のものさし』  内藤正典  筑摩書房
              【カブトムシではなくカメ】
 かつてフォルクスワーゲンの工場では、イタリアからの出稼ぎ労働者がたくさん働いていた。今でもイタリア系の人たちがヴォルフスブルクに住んでおり、だからイタリアン(料理店)が多いようなのだ。(p.39)
 ヴォルフスブルクはドイツの北側にあり、イタリアとはかなり離れている。それでもイタリアから労働者が来ていたのは、物作りに秀でた能力を有するエルトリア(=エルトルキス)の人々が来ていたからなのかもしれない。
     《参照》    『イタリアーニ』 小林元  日経BP社
                【エルトルキス】

 

 

 

【カズさん】
 カズさんがキングたる所以は、メニュー選びのときに感じさせられた。野菜をたっぷり注文し、炭水化物をほとんど頼まない。試合の前はエネルギー源となる炭水化物を摂った方がいいけれど、普段は余計な脂肪がついてしまうからだ。やっぱりキングは違うと驚かされた。当然、デザートも食べない。(p.58)
 カズさんはみんなでご飯を食べていても、自分が決めた時間になったら、「じゃあ、明日練習だから」と言って帰っていく。周りに流されず、長居はしない。やはり長く現役を続けている選手には理由がある。(p.59)
 そんなカズさんに、
 僕はずっと聞きたいことがいくつかあって、ここぞとばかりに矢継ぎ早に質問した。当時僕はまだ人見知りが激しかったけれど、さすがにカズさんの前ではモジモジしている時間がもったいなかった。・・・中略・・・、カズさんの一言がなかったら、僕は移籍のタイミングを逃してしまっていたかもしれない。(p.58)
 傑出した人に直接会える時間って、凄く重要。
 そんな時、貪欲なほどに聞いちゃう人って、向上心がある証拠だから、やっぱり傑出してゆく。

 

 

【パワーをもらえるもの】
 腕まくりをして、汗を流しているおじさんを見ると僕は何だかすごく熱くなる。きっと早朝から家族のためを思って頑張っているんだろうな。・・・中略・・・。あとはお母さんが小さい子どもを自転車に乗せて、一生懸命こいでいる姿も好きだ。僕はこのシーンが女性の魅力的な瞬間のひとつだとも思うし、パワーをもらえるのだ。(p.60)

 

 

【ベンチにいるとき】
 僕はベンチにいるとき、マガト監督がMFにどんな指示を出し、どんなプレーに一喜一憂するのかをじっくり観察した。その結果あらためて分かったのは、僕が思っている以上にマガト監督はリスクの高いパスをきらうということだった。・・・中略・・・。
 MFとしては局面を一発で打開するパスを出したい・・・という誘惑にかられるが、僕は今までよりさらに“Sicherheit”(ドイツ語で「確実性」の意味)を大事にして、プレーするようになった。(p.99)
 ベンチにいる時、中田英寿選手は、相手選手の癖をよく観察し、長谷部選手は、監督の好みを観察していた。
 ベンチにいる時、その時間をどう使うかが、選手としての大きな分かれ目である。
 ベンチにいる時、くすぶっているだけでは、もったいないというか、ただの無駄である。
    《参照》   『時は金なり、時間の千円札を拾え!  深見所長講演録⑮』 (菱研)
                【団体競技と個人競技】

 

 

【英才教育】
 当日、スタジアムに向かう前にホテルでミーティングを行う。そこでオフト監督はまず先発メンバーを発表し、続いてベンチに座る7人を告げる。ここで名前を呼ばれなかった「ひとり」が登録メンバーから外れなければならない。
 プロ一年目、僕はことごとく、その「ひとり」だった。
 18歳の僕にとって、それを受け入れるのは簡単じゃなかった。・・・中略・・・。人生初の外国人監督に対して不信感を抱きつつあった。
 だが、あるとき僕は勘違いしていたことに気づかされる。(p.101)
 オフト監督の一言で“勘違い”に気づいたのだけれど、やがて日本サッカーチームのキャプテンとなる長谷部選手は、オフト監督のこの采配というか英才教育によって、基礎を培われていたと言えるだろう。
 スポーツでなくても、華やかな会場からもっとも遠い所で下働きをすることを指示されたら、長谷部選手のこの事例を思い出せばいい。

 

 

【お酒と筋肉系のケガの関係】
 そういう(夜の付き合いを続けた)生活を1年近く送ったときに、僕はふとある“相関関係”に気がついた。周りの選手を見ていると、夜遊びをしたくて、たくさんお酒を飲んでいる選手ほど筋肉系のケガをする確率が高かったのだ。・・・中略・・・。のちにアスレチックトレーナーの方に聞いたところ、お酒を飲むと患部が充血して、ケガの回復が遅れるそうだ。古傷の状態が悪化することもあるという。(p.173)
 お相撲さんでデータを取ったら顕著な相関が示されるかもしれない。

 

 

【脱皮して生きていく】
 この本(『超訳 ニーチェの言葉』)をめくっていると、
 【脱皮して生きていく】
 という項目が目に飛び込んできた。その説明として、
 脱皮しない蛇は破滅する。人間もまったく同じだ。古い考えの皮をいつまでもかぶっていれば、やがて内側から腐っていき、成長することなどできないどころか、死んでしまう。常に新しく生きていくために、わたしたちは考えを新陳代謝させていかなくてはならないのだ。
 僕はこの一文を読んで、ドキッとした。
 戦術変更を受け入れられない自分は、まさに「脱皮しない蛇」なのではないか、と。(p.181)
 読書を続けていると、どのような形であれ、必ずや、“定常維持”は不可能であることに気付く時が来る。
    《参照》   『海馬 脳はつかれない』 糸井重里・池谷裕二 朝日出版社
              ○こんなことを考えていた。

 

 

                    <了>