≪メルトダウン再び≫
新崎原子力発電所の現場では、格納容器の圧の上昇に頭を悩ませていた。
「とくかく、早くベントしようよ!ベント!」と、関東電力本店から指示が飛ぶが、そのたびごとに、テレビ会議システムでつながっている新崎県庁の危機管理監から、
「地元自治体から、住民の避難が終了した、との報告が来ておりません」と釘を刺される。
「どんな感じですか、住民の避難は?」
原子力災害対策本部事務局長の井桁勝彦が、焦れている官邸を代表して質問する。事務局長といっても法律的な位置づけはないし、原子力の専門的な知見もない。
「とにかく、道路という道路は麻痺してるんです、避難も何もできていません」 そう、県の危機管理監が開き直る。(略)
原発周辺の線量も徐々に上昇していた。
格納容器の圧が高まっていることから、格納容器のフランジやハッチを通して微量の放射性物質が漏洩していると見られた。格納容器が破壊される前に、ベントで内部の圧を逃がしてやることが必要だ。
「避難が終わるまで、ベントは絶対にやめてください。ベントで放射能を浴びるのは、日本全体ではなくて、住民です。私には住民の安全を守る責任があるんです!」
新崎県知事が吠える、知事に圧倒され、原子力規制委員長は、本部長たる総理の顔色を窺った。原子力緊急事態における最高司令官は総理である。知事や事業者に指示できるのは総理だけだ。
「とにかく、知事におかれては、一刻も早く避難を完了させてください」と総理。まだ声に張りがあるが、不安そうな顔つきだ。目が泳いでいる。
しかし、そんなことは誰だってわかっている。この局面では、住民のリアルな被爆と日本沈没のリスクとの究極の選択、それが総理に求められていた。(略)
昨夜の官邸からの指示で、各地から非常用電源車やタンクローリー車が合計100台以上、新崎原発へ向かっていた。しかし、軒並み新崎県内の交通渋滞に巻き込まれ、到着している車は1台もなかった。
しかも、雪に踏み固められ、路面が鏡面化したインターチェンジの出口付近では、首都圏から向かったタンクローリーが横転、漏れた燃料に引火し、出入口一帯が火の海になってしまった。こうした高速道路は、全面的に通行止めとなったのである。
(次回につづく)

