病院からは
バスで帰ろう と思った
でも
公園の脇を通っている時
夕日が 辺りを赤く染めていて
こんなきれいな景色を 見ながら
歩いて帰るのも 悪くないかな
な~んて
柄にもなく
ロマンチックな考えが 浮かんで
私は 1時間弱の道を
敢えて 最短の幹線道路を避け
裏通りに 入っていき
googleを頼りに
知らない住宅街を 歩いた
途中で
日は すっかり暮れて
灯り始めた 明かりや
夕餉の匂いや
家の中から聞こえる 声が
家族の団らんみたいなものを
想起させて
ちょっと エモい気分になって
これから先
母がいなくなった時のことが
頭に浮かんできて
不意に 胸がドキドキしてきた
私は
一人での外食が
かなり苦手な人間なんだけど
その夜は
一人であるにもかかわらず
何故か ふらふらと
目についた
間口の小さいレストランに
入ってしまった
一人で お勧め定食をいただきながら
いつか
こういうのも 私の生活の一部になる
と思った
一人の食事は
さびしい気もしたけど
自分が 食べたいものを
自分で 選んで
窓から往来する人を
眺めなたり
周りで食事する人の気配を
感じたりしながら
食べる
こういうのも 悪くないかもね
そんなことを 感じながら
私は
久しぶりに
ゆっくりと 誰にも邪魔されず
夕食をいただいたのだった
翌朝
私は 病院の開く時間に合わせて
自転車で 出かけた
昨夜は
久しぶりの 自分の時間を
もっと楽しめるか と思ったけど
そうでもなかった
母は 看護師の指示に
従っているだろうか
迷惑がられていないだろうか
そんなことが 気になって
お箸や スプーン
ちょっとした お菓子
母の気を紛らわす
古いアルバム
などを
だらだらと 紙袋に詰めていた
病棟に着いて
来客名簿に 名前を書き終わり
人の気配がして 振り向くと
病室の前で
車椅子に座る 母がいた
気分は よさそうだった
傍にいた看護師に 軽く挨拶してから
母に声をかけた
どう? おかあさん 具合は
すると
看護師が 母と目を合わせながら
絶好調なんですよね~ Sさん
そう言って 腰をかがめ
車椅子のフットサポートを
持ち上げながら
さあ 娘さんに
うれしいサプライズを
見せてあげましょう
と母を促した
母は
看護師に 支えられて
よろよろと 車椅子から立ち上がった
看護師も 母も
どうだ と言わんばかりの
満面の笑みを 浮かべている
そして
その後!
なんと!!
2,3歩 歩いたのだった!!!
私は
その 信じられない光景を
前にしながら
昨日 私が病院から帰る前の
母の様子を
思い出していた
直前まで
死にたいくらい 痛くて
体が ダンゴムシのように縮んでいて
救急車で 運ばれてたにもかかわらず
あの時 母は
自分も 一緒に帰る
と言って
確かに 自力で
ベッドから起き上がった
デジャブか これは
その時も 私は
今と同じように
信じられない思いで
その光景を 見ていた
…と 突然
ホント
信じられないですよねえ
と 後ろから声がして
振り向くと
昨日の先生が
ニコニコしながら 立っていた

