救急車は すぐに来てくれて

 

前回と同じように

テキパキと 母を

前回と同じ病院まで 運んでくれた

 

 

 

今回は 診察時間内だったので

病院には 多くの専門医がいて

 

母を 詳細に診てくれた

 

 

その結果

 

整形外科の先生から

なんと!

 

圧迫骨折している可能性がある

 

という 爆弾発言があった

 

 

骨折?

骨折は していないってことでは…

 

先生の言葉に

納得できない気分の 私

 

 

詳しいことは まだわかりませんが

これだけ痛みが強い ということは

何か 原因があるわけですからね

 

入院して

しっかり 治療しましょう

 

 

 えっ 入院?

 

さっきと違って 今度は

さすがに 声が出てしまった

 

だって

救急で来た時には

さっさと 家に帰されたから

  

 

でも

 

今回 入院して

きちんと 検査してもらって 

 

痛みの原因がわかれば

 

きちんとした治療が できる

 

そうしたら

母から 言われ続ける

痛い 痛い という言葉の重圧から

開放される日が来るはず

 

 

私は 光が見えた気がして

うれしくて

反射的に 質問してしまった

 

入院は

どのくらいの期間ですか?

 

 

先生は

首を傾げながら 答えた

 

ん~ 現状を見ると

場合によっては 1ヶ月…

 

 

母がいない 1ヶ月

 

それは 頑張った私に

神様がくれた プレゼントか

 

と一瞬 よろこんだ

 

けど

すぐに 思い直した

 

母が そんなに長く入院したら

絶対 認知症が進行する

 

体力も落ちる

 

それは マズイ

 

私の表情は

百面相のように 変化していく

 

 

まあ 入院期間については

色々検査しないと

なんとも言えませんけどね

 

先生は

そんな言葉を残して 去っていき

 

私は

母の車椅子を押す看護師と一緒に

入院病棟に 向かった

 

 

 

母に用意されたのは

ナースステーションの傍の

4人部屋の

入ってすぐのベッドだった

 

他のベッドは すべて空いていた

 

母が認知症なので

色々 配慮(警戒?)されたようだ

 

 

私が 部屋の隅で

入院のための 大量の書類と

格闘している間

 

ベッドに横になった母は

終始 不安そうだった

 

私 ここに泊まるの?

M子は 帰るの?

 

 

大丈夫ですよ

何かあったら

このコールボタンを 押してください

 

誰かが すぐに来ますから

 

傍にいた看護師から そう言われても

母は 既にパニック気味

 

ナースコールのボタンと

その傍から伸びている

他の機器の いくつかのボタンとの

区別が 全然つかなくて

 

どれなの? どれなの?

と ヒステリックに叫んでいる

 

 

私は 書類の記入を続けながら

 

おかあさん 体が痛いんでしょ

それを治すために 入院するんだよ

 

ゆっくりとした声で 話し掛けた

 

えっ 入院?

いやよ 帰る

 

起き上がって

ベッドから下りようとする 母

 

…えっ?

 

起きれるの?

 

家では 私が手伝っても

起き上がることなんて不可能な

ダンゴムシ状態だったのに

 

 

でも まあ さすがに

関節が きちんとは伸びなかったか

ベッドから 転がり落ちそうになる

 

看護師たちが

手を出しながら 駆け寄ってくる

 

その手をはねのけようとして

よろける 母

 

慌てる 看護師

 


 こういう時こそ

母には 私が落ち着いている様子を

見せなくては

 

明日の朝 また来るから

 

私は おもむろに目を上げ

淡々と言った

 

 

記入しなくてはならない 入院の書類は

山程あった

 

その 一番下に

レンタル用品の申込書が あった

 

タオル&洗面セット

パジャマセット

 

そして オムツのサブスクも

 

 

日頃は 質素倹約を旨としている

 

でも その時は

ひとに任せられるものは

全部 任せるつもりでいた

 

そこを頑張る余力は

私には もう残ってなかった

 

 

 

その後

 

明日 来る時に 持ってくるものなど

看護師にきいてから

私は 帰った

 

その時

不安げな母とは

視線を合わせないようにして

静かに フェードアウトした

 

 

外を出たら

もう あたりは薄暗くなっていた