=転倒後1日目=

 

早朝

家に戻ってからの 母は

 

鎮痛剤が聞いているのか

午後まで 寝続けた

 

私も

横になったけど

いろいろなことが 頭をよぎり

寝つくことはできなかった

 

 

昨夜から

怒涛のような時間だった

 

転んで 血の海になって

 

あの時 私が

あの 小さな物音に

気が付かなかったら

 

たいしたことじゃないだろう

と判断して

部屋まで 見に行かなかったら

 

そしたら

今頃 母は…

 

 

自分の人生

失敗も 多かったけど

あの時の判断だけは

的確だったな 自分

 

な~んて

誰も 褒めてくれないから

自分で自分を 褒めるけど

 

 

一番心配だった 脳のダメージは

今の段階では

見られない ということだし

 

骨折もない ということなので

 

後は

1週間後 抜糸したら

 

筋肉痛は もうしばらく

残るかもしれないけど

 

早晩

もとの生活に 戻れるだろう

 

 

な~んてことを 考えているうち

 

いつ 寝てしまったんだろう

 

 

 

M子~ M子~

 

遠くで 私の名前を呼ぶ声が聞こえて

目が覚めた

 

 

急いで 母の部屋に行ってみると

母が 呻いている

 

トイレに行こう と思ったんだけど

起き上がれないのよ

 

半泣きで そう言いながら

手足をバタつかせているが

 

起き上がろう と体勢を変えると

全身に激痛が走るらしい


 

ひどい筋肉痛は

すぐには治らないわよ

 

私は そう言いながら

母の体を起こそうとした

 

あゔゔゔゔゔゔゔ~

 

と呻き声を上げる 母

 

その声に 動揺する私

 

きっと

もっと うまい介助方法が

あるんだろうけど

いかんせん こんなことは初めてで

力の入れ方が さっぱりわからない

 

 

母を 元の体勢に戻して

少し休んで

初めから やり直し

 

起こすと また

 

あゔゔゔゔゔゔゔ~

 

…以下リピート

 

 

そうして

最初のトイレに行くのに

15分くらい(!)かかってしまった

 

それだけで

心身共に クタクタになった

 

 

おかあさん

体が痛い間だけでも

オムツ つかわない?

 

私は 言葉を選びながら

言った

 

いつもの母だったら

言下に 否定するけれど

この 状況だもの

 

母にとっても 私にとっても

それが 正解なはず

 

私は 期待していた

 

 

でも

母の口から 出た言葉は

私の期待とは 真逆のものだった

 

オムツ?

絶対 イヤよ

 

この痛みの中でも

プライドは 健在だった

 

 

にもかかわらず

母は 続けて

こう 言うのだった

 

ねえ それより

どうして 私

こんなに 体が痛いの?

 

 

プライド高き 認知症母は

 

知らぬが 仏

 

昨夜のことは

一切 記憶にないのだった