母は

縫合の衝撃のせいか

しばらく おとなしかった

 

10分もしたら

記憶が薄れてきたらしい

 

頭が痛い

背中が痛い

早くおうちに帰りたい

 

などなど 文句を言い始めた

 

 

最初は

あの 痛みに耐える母を

見ていたので

 

後で 先生に聞くからね

いま 薬が効いてくるからね

 

などと

やさしい声で なだめていたんだけど

 

時は丑三つ

 

日をまたいで なおも続く緊張に

私も 疲れ切っている

 

ノンストップで 文句を言い続ける母に

さすがに イライラしてきた

 

自分の返す声が

少しづつ大きくなり

トーンも 冷たくなってくるのが

わかる

 


母の痛みや 辛さに

寄り添う気持ちは あるつもり

 

だけど 現実には

 

医者でもない私が

今 この場で

してあげられることなんて

ほとんど ない

 

それなのに

文句を 言われ続ける

 

 

ああ 苦しい

M子 どうにかして

 

母の その言葉に

突然

私の胃が キリキリと痛み出した

 

 苦しい?

そんなこと 言われたって

私には 何もできないし

 

私に

何を 期待しているの

 

気持ちが

一気に 攻撃的になる

 

ヤバイ


私は

落ち着こう と

深呼吸した

 

声を出す前に

6秒数えたりも してみた

 

でも

その効果は 限定的

 

ああ もう無理だ

 

限界だ

 

 

しつこいってば!

少しは 我慢しなさいよ!

 

 

深夜の救急治療室に

私の声が 響き渡った


ハッ として

自分の口を 手で覆った

 

みんな 耳ダンボで聞いている

 

このままだと

介護虐待だと 思われる

 

でも

 

だけど

 

 

 

私は 目を瞑り

耳を抑えて

母からの情報を

すべて シャットアウトした

 

自分の心臓の音だけが

ドクドク と響く

 

 

私は

ダンゴムシのように

防御の姿勢を とって

 

感情の荒波が 収まるのを

じっと待つしかなかった