深夜

 

救急車は

我が家の前の 狭い道に

サイレンと 赤色灯で

その存在をアピールしながら

入って来た

 

ご近所さんに

我が家で 何かあったことが

丸わかり

 

 

日頃の 私だったら

ちょっと恥ずかしい気持ちに

なるけど

 

その時の私は

完全に 吹っ切れていた

 

ただただ 1秒でも早く

救急車に到着してほしくて

 

道路の ど真ん中で

大きく手を振り 方向を示し

救急車を先導したくらいだ

 

 

 

救急隊員は

さすが プロだった

 

部屋に入って

母の様子を 確認し

 

すぐに

 

応急処置を するひと

 

携帯を手に

搬送先の病院を 探すひと

 

私に

質問や指示を するひと

 

に分かれた

 

 

何をしたらいいか わからず

ただ 案山子みたいに

突っ立っている私に

 

その 指示役の方は

 

今から 救急搬送しますが

付き添い お願いできますか

 

と聞いてきた

 

もちろん 私に

一緒に行かない という

選択肢は ない

 

 

では 家を空ける時は

お母さんの保険証と お薬手帳

それから 鍵を

忘れないようにしてくださいね

 

と 気遣いの言葉まであって

 

さすが 救急隊員

 

 

もっとも

 

残念なことに

 

その時の私は

言われた言葉の 意味が

ただの 音の羅列のようにしか

聞こえなくて

 

ほけんしょうと おくすりてちょうと かぎ

ほけんしょうと おくすりてちょうと かぎ

 

と何回か 反復し

ようやく その意味が理解できる

というくらいに

テンパってた

 

 

救急車の中でも

 

母は

首を固定する器具を つけられ

 

それが イヤなのか

血のついた顔を しかめて

血のついた手を 宙に泳がせながら

呻いていたんだけど

 

それを 見て

 

なんか ゾンビみたいだなあ

 

不謹慎にも

私は 母を

そんなふうに思ったのだった