ハロー、ボンジュール、ニイハオ……。
この世界的受難に際して、吾が地球市民はどう立ち向かっているであろう。
今が一番苦しいときである。
じっと我慢して闇雲にフラフラ外に出なければ勝ち目はある。
ただ、籠城するにしても、目的と過ごし方次第である。
音楽を聴きながら、好きな本を読んで楽しく過ごすのに越したことはない。
ここで、籠城中のお奨め本の一部をここに紹介する。
これは、井上ひさしのベスト・エッセイから
「定期預金」
放送の台本を書いていたころ、わたしは次の目標を映画台本に置いていた。つまり映画のシナリオ作家になりたかったわけだ。
そして、その機会は意外に早くやってきた。ある大手の映画会社からシナリオの注文が舞い込んだのである。いそいそと打合せの席に出かけていくと、プロデューサー氏が言った。
「なにしろあなたは新人である。いくらなんでもいきなり本篇の台本をまかせるわけには行かない。まず、ウォーミングアップがわりに20分のPR映画の台本を書いてほしい。その出来栄えによっては、次回から本篇の台本をおねがいすることになるかもしれない」
わたしはすこしがっかりした。が、すぐPR映画も映画のうちだ、と思い直し、プロデューサー氏に、そのPR映画のスポンサーはなんという会社か、とたずねた。彼はこう答えた。
「S銀行だ。S銀行では来年から無記名定期預金を扱う。その無記名定期預金のPR映画の台本をあなたにお願いしたいのだが……。台本料は十万円でどうだろう」
十数年前の十万円は大金だった。わたしはふたつ返事で引き受け、一週間ほどかかって、大略次の如き台本を書きあげた。
……東京の下町の木造アパートの一室に眼付の鋭い男たちが数人集まっている。眼付の鋭いのも道理、この連中は銀行強盗団なのだ。
連中はアパートの壁に8ミリ映画を映写しはじめる。その映画の内容はS銀行に関するあれこれ。つまり銀行強盗団が襲撃予習のためにS銀行の業務内容その他を研究しているという仕掛けをかりて観客にS銀行のPRをするわけである。
いよいよ、強盗団は銀行破りを決行する。研究の成果あがって襲撃は成功、強盗団は、お金の入った大袋を担いで銀行を出ようとする。
だが、このとき、縛られていた女子行員が、
「あのう……」
と、強盗団に声をかける。
「そんな大金を持ち歩いて、もし落としたらどうなさいます。それに紙幣の番号はすべてひかえてありますから、すぐに捕まってしまいますよ。ほとぼりのさめるまで、当銀行で定期預金になさったら?」
「冗談じゃねえ」
強盗団員たちはこの提案を一笑に付する。
「定期預金に組むときに名前がばれらあ」
「ところが今度、無記名の定期預金ができたのですよ」
女子行員はここで、無記名定期預金の利点を懸命にまくしたてる。これまた強盗に説明するという設定をかりて、この映画の観客に無記名定期預金のメリットを説くという仕掛けである。
さて、強盗団は説明を聞くうちにすっかりこの定期預金が気に入り、たったいま盗み出した金を一文残らず、定期に組んでしまう。そして銀行を出たところで連中はいっせいに首を傾げ「でも、なんか変だな」と異口同音に呟くところへ、エンドマークが出る……。
これなら無記名定期預金のPRにもなるし、おもしろい。プロデューサー氏も喜んでくれるだろう。そう考えて自信満々で台本を提出した。が、ひと月たちふた月たってもプロデューサー氏からはなんの連絡もなかった。すこし心配になって首尾を聞きに行くと、彼はわたしにこう怒鳴った。
「あんまりふざけた台本を書くものではないよ。あんなもの、スポンサーに見せられるものかね。いま別の台本屋さんに真面目なものを書いてもらっている。さあ、あんたは早くお帰り」
……という次第でわたしは映画のシナリオ作家になるのは諦め、やがて今度は戯曲の勉強をしはじめた……。
と、こんなおもしろいエッセンスがいっぱい詰まったエッセイなのである。
そうしてこの困難な籠城を音楽を聴きながら、また楽しいエッセイを読みながら長期戦に備えて負けない諦めない気力を培っているのである。
地球市民よ、共に闘おう!コロナに負けないで。
そして来年こそ必ずTOKYOオリンピックを成功させよう!
