私は思い立ちlの書斎に入った。
机の上にはセミナーの名前が
入っている大そうなファイル。
パラパラとめくると
「自己犠牲の精神」とか、
「すすんで愛を示す」などという
体のいい言葉がIの字で書かれて
いた。
ふと、
私はそのノートの端っこに
小さな文字で書かれていた
いたずら書きに気づいた。
「抱きたい」
「早くホテルに」
「愛してる」
それは
講義中に恐らく隣同士で座っていた
その女性との筆談。
心臓が止まった。
震える手でページをめくった。
そのページにも落書きがあった。
「我慢できへん」
「キスしたい」
他にも
ハートマークや、
相合傘の落書き。
そこにはIの名前と
Fという女性の名前が書かれていた。
まさか!
あのIが私を裏切るなんて。
あれほど私を束縛し、
私にしか関心のなかったあのIが。
私たちほど好き合い愛し合っている
夫婦はいないはずではなかったのか。
その瞬間目の前が真っ暗になった。
・・・・・・・
Iと話したい。
そう思ってもIはその日も
その次の日も帰って来ない予定
だった。
この苦しい胸の内をどうすればいいのか。
本当に本当に途方に暮れた。
だが、
目の前には、
無邪気にハイハイを始めたばかりの次男。
そのこの世で一番愛おしい存在に
私は救われていた。
・・・・・・・・
結局なかなか話せず、
話したのは9月に入ってからだった。
Iはあっさり認め、
その場で彼女に電話した。
私はIに電話を代わるように言い、
その時彼女にこんな感じのことを
言った。
「まだ赤ちゃんがいます。
子供たちにとっても
私にとっても
Iは必要なんです。
なのでどうか別れてください」
彼女は泣いていた。
泣きながら、「すみません、
すみません」と言い、
「わかりました」と言った。
全ては上手くいったと思った。
だが、これが大間違いだった。
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