Iはその女性に夢中になった。
当然外泊は増えた。
だが、私は気づかなかったのだ。
むしろ子育てに夢中で、
まさに「亭主元気で留守がいい」の
心境だった。
夫が(嘘の)出張に出かけると、
私は二人の子供を連れて実家に帰った。
当時の私にとって実家は天国だったのだ。
ところがそのうち、出張でもないのに
Iが帰って来ない日が増えた。
心配で電話をすると、
会社には行っており、
「忙しいんや」の1点張り。
それにしてもあまりにも外泊続き。
ある時ふと、
もう何か月もセックスはおろか、
まともに会話もない、
ごはんも一緒に食べることさえしていない
ことに気づいた。
そしてIがいる夜に限って無言電話が
かかることにも。
え?
おかしい。
初めて何かを思った。
(本当に呑気だった)
気づけば私の体重は落ち
かなり痩せていた。
私はやっぱり寂しかったのだ。
そう気づいてから
何となく私は実家にも行かなくなった。
夏の日の早朝、
私はホースで庭に水を撒いていた。
これみよがしのゴルフバッグを
抱えたIが、
「ほな、行ってくるわ」と慌ただしく
車に乗り込むその背中に言った。
「ほんまにゴルフ?
誰と?」
Iは一瞬固まったようにも見えたが、
「そうやで~。
○○さんとな」
それからヘラヘラと笑いながら
私の顔を指で何度も指してこう言った。
「あんたな、
頭おかしいんちゃうか?
育児ノイローゼやで。
病気や、病気や!」
私は言葉を失った。
確かに今の自分には
覇気というものが全くないと
初めて自覚したのだ。
その日だったかその数日後だったか、
父が電話をかけてきた。
とても珍しいことだった。
「どないしてはりますのや?
元気にしてはりますんかいな。
最近おいでになってませんな~。
一回また顔見せにおいで、な。
おいしいもん食べよか」
少しおどけた風の父の言い方。
その声を聞いた瞬間涙が溢れた。
だが必死で平静を装って、
「うん、また行くわ」と言った。
(私はこの後もそして今に至っても
このIの不貞については
親兄弟には一切話していない。
義姉だけには話した)
電話を切ると、
私は座りこんで号泣した。
泣いても泣いても泣いても
泣きたりないぐらいに
その時の私は泣いた。
・・・・・・・・・
書きながら気づいたことがある。
頭に蘇るIの声や言葉。
私のことはいつしか
ちゃんづけから、
「あんた」と呼ぶようになっていた。
・・・・・・・・・

