反回神経麻痺というのは、専門用語である。医師にはわかると思うが、普通の人は聞いたことがない言葉だろう。僕自身、この言葉が身についてしまっているので、まったく違和感はないが、わからない人も多いので、解説しておく。
反回神経麻痺は、声がかすれたとやってくる。他の症状があるとすれば、嚥下時の咳かな。これは声帯が麻痺して動かないために、気管に食べ物が落ちてしまうのだ。声帯麻痺と言ったほうがわかりやすいかもしれない。ただ、医学書にのっているのは反回神経麻痺なのだ。
反回神経とは、脳神経の一つであり、主に声帯を動かす神経である。これが麻痺すると、声のかすれがでてくる。
耳鼻科医であれば、声のかすれの人の声帯をファイバーでのぞいてみれば、すぐに診断がつく。診断はつくが、難しいのは麻痺がおこった原因は何かということである。
この麻痺がおこるのは3か所のどこかに異常がきた場合である。
1)脳の異常
多くは脳梗塞などだろう。脳神経の一つなので、脳に障害が起こった時に、この麻痺がおこる可能性がある。
2)首の病気
声帯のところに届く神経なので、声帯周囲に異常が起こると麻痺がおこる。一番多いのは甲状腺がんあたりだろう。甲状腺のがんが周囲にひろがると、その脇にある反回神経がやられる。
3)肺や心臓の病気
これはもっぱら、左側にのみ起こる。右側には起こらないと思ってもいい。反回神経というのが、左側に関していうと、大動脈弓という心臓の血管をぐるっとまわって、声帯にもどってくるので、反回神経という名前がついているのだ。Uターンする神経というような意味である。心臓にあたりまで走っているので、心疾患や肺がんなどでこの神経がやられる。
開業してすぐに、若い女性が反回神経で受診してきた。脳や胸を調べたが、何も異常が見つからず。原因がわからなかったが、内服治療でよくなった。すっきりしないが、よくなったからよしとしよう。その後年に1~2人ぐらいは反回神経麻痺の人がやってくる。頭のこともあったし、心臓のこともあった。
先日の患者は、入ってくると「自分は肺がんであり、治療中だ」といいはじめた。声がかすれたから受診してきたのだ。ファイバーでみると、予想通り、反回神経麻痺である。胸部CTなどは何もないので、肺の状態はわからないが、肺がんの神経浸潤であることは容易に想像がつく。それを説明して、肺がんの治療をしている病院で相談するようにともどってもらうことにした。結局は現病の治療が必要だからだ。今の段階で耳鼻科医ができることは何もない。