抗精神病薬の減量のテクニック
実は、このような話はあまり書物に書かれていない。
漸減する。急に中断するのは良くない。
くらいに書かれていることが多い。そういうのは当然だが、一方、「悪性症候群の際には直ちに中止する」と書かれている。
なぜ、この手法上の矛盾にみんな気付かないのかと思う。
このような指摘をする理由は、大量服薬をしている人の薬物減量中に、診断基準上の「悪性症候群」類似所見を診る事は珍しくないからである。これを真に受けて急に中断すると深刻な事態に陥ることがある(このエントリの最後辺りを参照)。
今回は臨床経験の範囲で、総論的に私見を書いていきたい。だから、これは頭がおかしいのではないか?と思われる部分もある。
まず、超絶な多剤併用療法が行なわれており、コントミン換算も2500㎎を超えるが、それほど副作用が出ていないケースである。診断はこじれた器質性疾患(薬物中毒後遺症、免疫異常を背景に持つ人、広汎性発達障害も含む)、あるいは器質性の問題を孕んだ統合失調症の人が多い。興奮、暴力が著しく処遇が難しい人がこうなりやすい。
このような人はさほど副作用が出ていないように見えても、良く診ると過度に鎮静的であったり、空虚だったりと精神症状なのか薬のせいなのか曖昧な所見が見つかるものだ。
また、精神病院で長く生活しないと難しいレベルの人は、副作用が少ないならそのまま様子を診るという選択肢はもちろんある。そういう風に思わない精神科医がいたとしたら、その方が頭がおかしいと思う。
服薬しない状態で保護室から出すと、男性の看護師でさえ撲殺しかねない人もこの世には存在するからである。
保護室から出せない人で、職員が入ると殺されるか、大怪我をしかねないので、誰も室内に入ることができず、保護室の掃除すら無理な人もいたらしい(←実在。もちろん殺人の経歴を持つ)。
もちろん入浴させることも服薬させることも難しい。食事は室内にもって入れないので、格子の下の隙間から入れる。そうしてまた格子の下から引っ張り出したという。(こういう人をなぜ民間病院が診ないといけないのか?という苦情が出ていたという伝説の話)
まるで、1408号室である。
もし、その人に服薬させることが可能で、そうであれば隔離が必要ないほどの精神症状が維持できるか、それほど改善しなくても、職員が部屋の掃除ができるとか、入浴させられるほどに落ち着くなら、その方がずっと良い。例え大量投薬であったとしても。(Quality of Lifeのことを言っている)
ただ、このレベルの人はさすがに稀である。僕は20年間くらい保護室に入っていた人を出したことがあるが、その人は暴力性で入っていたわけではなく、統合失調症でかつ究極の社会不安障害のために自ら出なかったような人である。この人は出た日から、再び保護室に入るようなことはなかった。
さて、コントミン換算で2500㎎を超えており、しかも振戦や流涎、ジスキネジア、ジストニアなどの副作用が出ており、見るからに悲惨なケースは減量にはテクニックを要する。急に減らすことはかなりリスクがあるからである。
ポイントは、
① さほど重要とは思えず、減量してもそれほど離脱や病状悪化を来たさない薬から減量する。(この順番は非常に重要)
② 高力価の薬物が大量にあるケースは最初の20~30%はかえって減量しやすい。しかし、離脱性の希死念慮、焦燥、興奮を生じることはもちろんある。たぶん、今後ずっと必要だろうと思われる薬は最初は変更しない。
③ デパケンRやユベラN、ビタミンB12、などを緩衝剤として追加する。カタプレスも悪くない。(ユベラN、ビタミン剤が悪く作用する人はほとんどいないが、デパケンRは合わない人もいる。そういう人はデパケンRは避け、ベンゾジアゼピンで対応する。気分安定化薬のうち、リーマスを加えるのは不適切である。)
④ ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、眠剤はジストニア、ジスキネジアなどに治療的に働くので残しておく。また、これらは抗精神病薬の減量の際に起こりかねない痙攣発作にも予防的に働く。リボトリールが入っていない時は追加する。
⑤ アキネトン、アーテンはあわてて減らさない。(←極めて重要。ただ、あまりに多い場合、3分の1程度は減量しても大丈夫のことが多い。)
⑥ 減量中にジストニアがあまりに酷くなり始めたら、減量をいったん中断し筋弛緩作用を持つ薬(ミオナールなど)を併用ししばらく様子を見る。ダントリウムの追加も考慮する。この際には補液も有用である。また薬物を再増量することも視野に入れる。
多剤併用はその順列組み合わせが天文学的な数まで至るので、減量の細かいスケジュールはもちろんオーダーメイドであり、細かくマニュアルを作るのは実際的ではない。過去ログでは減量できた人の記事もいくつかアップしている。(参考1、参考2)
実際、年余にわたり2500㎎以上服用していたような人は、1000~1500㎎まで順調に減量できたら、そこでひと息つくべきである。
そのくらいの薬物量で、半年から1年くらいは様子を診る。本当は直線的に減量できる人もいるのであろうが無理はすべきではない。その後の予測が難しいからである。
その大きな理由は、難治性ジストニアや原因のはっきりしないてんかん発作?が生じることがあるため。前者も後者もその後が治療的に厳しい。このてんかん発作はたぶんスペクトラム的に難治性ジストニアに繋がっていると考えている。(←私見。転倒発作などが出現することがある)また、急な減量による原因不明の突然死もありうる。
いったんこのような不随意運動が出始めると、長期に全く抗精神病薬を使えないという事態になるため、本来の精神症状が悪化することも重大である。こうなれば治療を中断せざるを得ず、結果的に大量に服用していた時の方がよほど元気だったということも現実にはある。(治療の空白期間ができるのが良くない)
これは、1つは大量の薬がジストニアさえ抑え込んでいるというメカニズムがあるために、このような事態に至るのかもしれない。大量に服用している時期はそれなりにホメオスタシス(生体恒常性)が保たれているのである。性急な減量はそのバランスを崩すことになりかねない。
実はこのような難しい状況は、決してコントミン換算2500㎎といった大量療法に限らず、比較的少量の減量でも生じうるのである。なぜなら薬は個人差が大きく、つまりは相対的なものだからだ。(例えば、リスパダール4mgの減量の際にも起こりうることを言っている)
過去ログやコメント欄で、「素人判断で急な減量をするのは危険である」と時々書いているが、上のような意味である。この話には続きがあるが、いつか他の重要なエントリの文脈でアップしたい。
参考
悪性症候群の謎
悪性症候群の謎(補足)
座敷牢
長嶺敬彦「抗精神病薬の「身体副作用」がわかる」の感想
いったん混沌とさせる減量の方法
「いったん混沌とさせる減量の方法」のその後
頭部外傷から統合失調症になるのか?
体重の減量のテクニック
アルバイトのドクターは薬を変えられないこと
漸減する。急に中断するのは良くない。
くらいに書かれていることが多い。そういうのは当然だが、一方、「悪性症候群の際には直ちに中止する」と書かれている。
なぜ、この手法上の矛盾にみんな気付かないのかと思う。
このような指摘をする理由は、大量服薬をしている人の薬物減量中に、診断基準上の「悪性症候群」類似所見を診る事は珍しくないからである。これを真に受けて急に中断すると深刻な事態に陥ることがある(このエントリの最後辺りを参照)。
今回は臨床経験の範囲で、総論的に私見を書いていきたい。だから、これは頭がおかしいのではないか?と思われる部分もある。
まず、超絶な多剤併用療法が行なわれており、コントミン換算も2500㎎を超えるが、それほど副作用が出ていないケースである。診断はこじれた器質性疾患(薬物中毒後遺症、免疫異常を背景に持つ人、広汎性発達障害も含む)、あるいは器質性の問題を孕んだ統合失調症の人が多い。興奮、暴力が著しく処遇が難しい人がこうなりやすい。
このような人はさほど副作用が出ていないように見えても、良く診ると過度に鎮静的であったり、空虚だったりと精神症状なのか薬のせいなのか曖昧な所見が見つかるものだ。
また、精神病院で長く生活しないと難しいレベルの人は、副作用が少ないならそのまま様子を診るという選択肢はもちろんある。そういう風に思わない精神科医がいたとしたら、その方が頭がおかしいと思う。
服薬しない状態で保護室から出すと、男性の看護師でさえ撲殺しかねない人もこの世には存在するからである。
保護室から出せない人で、職員が入ると殺されるか、大怪我をしかねないので、誰も室内に入ることができず、保護室の掃除すら無理な人もいたらしい(←実在。もちろん殺人の経歴を持つ)。
もちろん入浴させることも服薬させることも難しい。食事は室内にもって入れないので、格子の下の隙間から入れる。そうしてまた格子の下から引っ張り出したという。(こういう人をなぜ民間病院が診ないといけないのか?という苦情が出ていたという伝説の話)
まるで、1408号室である。
もし、その人に服薬させることが可能で、そうであれば隔離が必要ないほどの精神症状が維持できるか、それほど改善しなくても、職員が部屋の掃除ができるとか、入浴させられるほどに落ち着くなら、その方がずっと良い。例え大量投薬であったとしても。(Quality of Lifeのことを言っている)
ただ、このレベルの人はさすがに稀である。僕は20年間くらい保護室に入っていた人を出したことがあるが、その人は暴力性で入っていたわけではなく、統合失調症でかつ究極の社会不安障害のために自ら出なかったような人である。この人は出た日から、再び保護室に入るようなことはなかった。
さて、コントミン換算で2500㎎を超えており、しかも振戦や流涎、ジスキネジア、ジストニアなどの副作用が出ており、見るからに悲惨なケースは減量にはテクニックを要する。急に減らすことはかなりリスクがあるからである。
ポイントは、
① さほど重要とは思えず、減量してもそれほど離脱や病状悪化を来たさない薬から減量する。(この順番は非常に重要)
② 高力価の薬物が大量にあるケースは最初の20~30%はかえって減量しやすい。しかし、離脱性の希死念慮、焦燥、興奮を生じることはもちろんある。たぶん、今後ずっと必要だろうと思われる薬は最初は変更しない。
③ デパケンRやユベラN、ビタミンB12、などを緩衝剤として追加する。カタプレスも悪くない。(ユベラN、ビタミン剤が悪く作用する人はほとんどいないが、デパケンRは合わない人もいる。そういう人はデパケンRは避け、ベンゾジアゼピンで対応する。気分安定化薬のうち、リーマスを加えるのは不適切である。)
④ ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、眠剤はジストニア、ジスキネジアなどに治療的に働くので残しておく。また、これらは抗精神病薬の減量の際に起こりかねない痙攣発作にも予防的に働く。リボトリールが入っていない時は追加する。
⑤ アキネトン、アーテンはあわてて減らさない。(←極めて重要。ただ、あまりに多い場合、3分の1程度は減量しても大丈夫のことが多い。)
⑥ 減量中にジストニアがあまりに酷くなり始めたら、減量をいったん中断し筋弛緩作用を持つ薬(ミオナールなど)を併用ししばらく様子を見る。ダントリウムの追加も考慮する。この際には補液も有用である。また薬物を再増量することも視野に入れる。
多剤併用はその順列組み合わせが天文学的な数まで至るので、減量の細かいスケジュールはもちろんオーダーメイドであり、細かくマニュアルを作るのは実際的ではない。過去ログでは減量できた人の記事もいくつかアップしている。(参考1、参考2)
実際、年余にわたり2500㎎以上服用していたような人は、1000~1500㎎まで順調に減量できたら、そこでひと息つくべきである。
そのくらいの薬物量で、半年から1年くらいは様子を診る。本当は直線的に減量できる人もいるのであろうが無理はすべきではない。その後の予測が難しいからである。
その大きな理由は、難治性ジストニアや原因のはっきりしないてんかん発作?が生じることがあるため。前者も後者もその後が治療的に厳しい。このてんかん発作はたぶんスペクトラム的に難治性ジストニアに繋がっていると考えている。(←私見。転倒発作などが出現することがある)また、急な減量による原因不明の突然死もありうる。
いったんこのような不随意運動が出始めると、長期に全く抗精神病薬を使えないという事態になるため、本来の精神症状が悪化することも重大である。こうなれば治療を中断せざるを得ず、結果的に大量に服用していた時の方がよほど元気だったということも現実にはある。(治療の空白期間ができるのが良くない)
これは、1つは大量の薬がジストニアさえ抑え込んでいるというメカニズムがあるために、このような事態に至るのかもしれない。大量に服用している時期はそれなりにホメオスタシス(生体恒常性)が保たれているのである。性急な減量はそのバランスを崩すことになりかねない。
実はこのような難しい状況は、決してコントミン換算2500㎎といった大量療法に限らず、比較的少量の減量でも生じうるのである。なぜなら薬は個人差が大きく、つまりは相対的なものだからだ。(例えば、リスパダール4mgの減量の際にも起こりうることを言っている)
過去ログやコメント欄で、「素人判断で急な減量をするのは危険である」と時々書いているが、上のような意味である。この話には続きがあるが、いつか他の重要なエントリの文脈でアップしたい。
参考
悪性症候群の謎
悪性症候群の謎(補足)
座敷牢
長嶺敬彦「抗精神病薬の「身体副作用」がわかる」の感想
いったん混沌とさせる減量の方法
「いったん混沌とさせる減量の方法」のその後
頭部外傷から統合失調症になるのか?
体重の減量のテクニック
アルバイトのドクターは薬を変えられないこと