鶏頭花
鶏頭の十四五本もありぬべし
獺祭だっさい書屋主人
正岡子規どのの句
詠まれてから 百二十年余
いまだに 秀句駄句論争の決着を見ない句 らし
もう いいじゃぁないか
花鳥詠月堂のケーキの味比べなんざ
な
捕獲した魚を丹念に 川岸に並べる
獺かわうその不可思議な習性
そのさまあたかも 神を祀るが如し
それに倣い 己が病床の周囲に 書物を並べて
日々の励ましと為す
ほの暗い 病室兼獺祭書屋
そこから見える光景
赤々と照りつける真夏の庭 下影黒く在るは
病の吾と 書物と 真紅に燃え立つ
鶏頭花
乾坤一擲 不動の一句
これでいい
のら
蕎麦の花
月明つきあかるく蕎麦きょうばく花はな如雪ゆきのごとし
白居易「村夜」の詩 抜粋
吉次の住む黒馬村は
修験道の聖地・響岳に源を発する清流 墨雨渓を抱いて
すり鉢状の田野と 神社や人家が広がる小村
古来より 響岳の登拝口として栄え
蕎麦や山菜の産地としても 広く知られる
冬は深い雪に埋もれ
陸の孤島や
山向こうの隣市との合併話が 紛糾したとき
吉次は 村長になった
曰く
大樹に寄れば 小樹は枯れまする
小樹ままで 最大限の滋養をこそ…
病院の重要性第一を説き 陳情を重ね 運よくの
「ふるさと創生」の動きもあり 既存の高齢者住宅の隣に
補助金を得て 念願の村立病院の実現となる
最終工事査定が済むのを待ちかねて 村長吉次はしれしれと
病院と高齢者住宅棟間を 別途工事の廊下で繋いで
医療と高齢者住宅棟を一体化
これでよ
雪ン中を 山越えて
難儀せんでも 済むやろ
それが一段落すると 響岳の清冽な
雪解の清水をブランド化
類い稀な地域おこし証例として
雑誌にも載ったれば
おお早速に
中央省庁から視察のお知らせ
あたかも蕎麦の花満開の季節なれば
最上段の見晴らし畑にご案内
吏氏どの眼下一望 蕎麦の花群落を見て 息を飲んだ
これが蕎麦の花か
見事やな
これに続く 驚愕の一言が なければ
村長吉次にとって いい日旅立ち だったのらが
うぅう 嘘ぅ!
蕎麦がこうなら 饂飩の花は もそっと
美しかろうに
のぅ
<実例あれど諸事情にて 与太話と読み捨て下されたく>
饂飩の花
折角のリクエストなれば 唄わねばならぬ
宇治拾遺物語(第13話・意訳)にいう
田舎出の小童 比叡の山の登り 寺童として仕える
桜花折からの風に はらはらと散るを見て
小童いたく泣きぬ
居合わせた僧 何と風流な童よ 訳はと問えば
この風で 郷里の
父ちゃんの麦の花が 散ってしまふぢゃろ
しっかと 実が入らぬぅ
それを思へば
おらぁ 切ないぇ
<吏氏どののリクエスト饂飩の花 別名を小麦の花>
農とは
自然界に ひたと寄りて離れず 忍耐の果てに開く
吹けば飛ぶよな 小花
フケにも似た 知性の花である
世に米相場大臣あれど 農に政なし
一朝に 農は語れないよ
ひとたび棄田すれば 復すに難く
田園まさに 荒れなんとす
それよ
爺ちゃん 嘆くなや
我が列島は 狭いようで 広いのや
田野の狭間 疎水の畔に 野武士の如く農に挑む
青年たちも多くいるのら
捨てたものでもない
なぁくさひろよ
<くさひろ=島根県益田市の中山間地域で農業を営むひと>
鬼の夏 三十五日の木偶
狩りをするに
二兎を追わず 乙矢を持たず
外れたれば
身の運無きを ふふふ わらわら嗤う
のら
まぁ田舎芝居だけどが
大見栄切っちやって 大丈夫かぁ
腱鞘炎に絵筆
震度七弱 震える恐怖の日々が
控えておる
のれす
笑童子 〉作品公式サイト
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