ののさんにあげましょ
花給れ
ののさんどこさ
山に六にん海に六にん
籠いっぱい給れ
花たもれ
子供たちが唄いながら 集落の家々を訪ね廻り
花を乞い歩く 夏越の祭
百日紅 凌霄花 仏桑花 鳳仙花 蘭蕉 夾竹桃
サルスベリ ノウゼンカズラ ハイビスカス ホウセンカ カンナ キョウチクトウ
南の島の夏は 赤紅一色
燃えるよ
この日ばかりは 花盗人の無礼講
悪童どもの恐れる 辻ノ姥も 何やら尊い菩薩顔して
夾竹桃にゃ毒があるけん 舐めたらいかん
よ
その花どうするね
九品寺の大楠の木陰に 茣蓙広げてな
藁しべ五本 細縄に撚りあわせ
花々 色とりどりに 数珠に連ねてな
あたしの花環 おれの花冠
夏の王女 夏の王の
飾り
や
その花輪どうするね
裸になってな
思い思いに 首にかけて
アロハと 浜に出る
好きや嫌いや あれこれ捨てて
一直線に 汀に並んで
手と手を とっくんとっくん命の綱 と繋いでさ
ざんざざんざと
海に入る
若潮の洗礼
花は流れて
どこどこ行くの
流れ揺られて
夏越の国へ
無事で元気で 夏を越せますように
ののさんの大きな懐へと
流れるのれす
ののさんって誰ぁれ
この世に来て 幾度目かの 子童たちの夏
彼らの胸の 真新しい心箱から 繰り出される言霊
その小さな眼に映った世界…
幼児言葉と侮るなかれ
語彙少なき故に 直截に的を射抜く 心霊の矢
恐るべし
毎朝仏壇に手を合わせて 南無なぁむ…と唱える聲を
ののさんと聴きなす
お鈴の音は チンモモと聴く
チィンと鳴り モォンモンモ…と余韻
お寺の和尚さんの大きな鉦は ガンモモ
ガァンと打って モォンモンモ…と響くこそ
おもしろけれ
ののさんという呼び名の意は 地方色さまざまに
お月さま 川の精 野の精 山の精 祖霊…など多岐多彩
融通無碍てか いい加減てか
なべて八百万
なのれす
九品寺の眼下に 砂浜が見える
花々は今年も忘れず 咲くのにさ
浜辺には 悪童たちの影は もうない
境内に群れ咲く 若冲居士の描く猛き鶏冠花
ぎらりきらり
傾いた童形の石仏に 金釘流の刻字
辛うじて辿れたよ
夏か幻げん童どう女じょ
と
蜻蛉にも似たいのちの薄羽
聴夏 2015年/朴/油彩着色/個人蔵
溶けそうに 暑いな
今日という日
この時は
幻花にも似て
奇跡の時であるな と思う
のら
初蝉の聲ぞ待たるゝ鑿の家

笑童子 〉作品公式サイト
鍋倉孝二郎 WORKS / SHOP



