ありやなしや
あれは 昨年の春であったかしらん
珍客ありて
我ら夫婦は 茅木山に棲まい致す 栗鼠にて候
と名乗った
庭男侘助(あたし)丹精の 庭の南面に
山桜の古樹が 二株あって
一株は淡い桃色 片や純白と 花の色が異なる
その花びらを
夫婦してひとしきり 食べ遊ぶと 消えた
帰りは 挨拶なし
この時期
我が苫家向かいの茅木山は 源氏の白旗の如く
一面の山桜爛漫というに
川を越えて わざわざのご来訪とは 異なこと
源氏の白幡が 恐とろしかとか ねぇ
ことは日向椎葉村 「平家落人伝説」でも
あるまいに
「奇」は「類」を呼び 「類は「奇」を呼ぶ…
そいうことにして
おこうかねぇ
花七日げに頃合いの別れかな
葉桜過ぎて サクランボ
熟れて嬉しや ルージュの伝言 赤い果実
頬まで染めて踊る 栗鼠の夫婦の おてもやん
愉しみは 寸刻なれば
はや「青葉繁れる」頃と なりにけり
たかが栗鼠ちゃんと言えども
「桜井の別れ」となるは寂しき
どうするね
一計思案するも 一閑人の浅ましさ
濡れ縁の隅に皿
林檎の一片を 置いてみたれば
目敏く見つけて
両方から引き合うて 食べる様 面白き
以来三月ほど それが日々の習い となるも
庭のコナラのどんぐりも
そろそろ熟れようか という頃
何故か ハタと 消息が
絶えた
黙って彫れやと いうことだな
「風童」の木偶一体を彫りあげ
対の「雷童」を半分ほど 彫ったところで
ふいとな 庭に何かの 気配あり
おお
何という お客人
栗鼠のこどもや
濡れ縁の硝子戸に 前足をペタして
白い腹見せて
しきりと中を 伺っておる
あの夫婦の こどもだな
栗鼠の遺言
前の里の桜樹の下の あばら家を訪ねるべし
獣と侮ること なかれ
かくして数か月ぶりに
林檎一片のお付き合い復活
名前を正吉(しょうきつ)と 呼んでみるのだが
振り向くだけで 返事はない
<それでいいのだ 栗鼠なのだからな>
<p=makieni>
人間以外の生き物や植物は
人間とは区別されなければならん
と言う説を 述べるひともある
木や花は伐られても 痛みなんぞ感じない
とか
ステーキ喰いながら イルカ殺してはイカン
とか
仇なす国は 謀りて 叩けとか
まぁ さまざまに 言わすけんど
が
結局のところ
人間は 一本の樹や 魚や鳥
一匹の蟻の「眼」すら ついぞ持てない
であるからして
「栗鼠の遺言」が あったか 否か
<野生本能に従うたまでのことか あたしは遺言ありに賭ける>
だが この勝負
あくまでも 五分と五分
式守伊之助 白房の軍配にて 天を指し
厳かに
引き分けにて候
<雷童>
煙よけむり
毎日木を彫っていると 木屑の山である
風のない夕方 庭で焚く
その赤い炎 真っすぐに消えてゆく煙
それらを見ていると
彫り残す木偶に 「真」ありや
それとも燃える炎
立ちのぼる煙に 「真」ありや
奇妙な思いに駆られる
謎
やがて 大陸から「黄砂」を
風が運んでくる季節
何の因果か 他国まで銃を担いで 出かけて
いのち果てて 遺言もなし
広大な異国の 小麦畑の土手の土と相なり
毎年風に捲かれては 海を渡る
あれは春風か
それとも
我らが 父たちの
一握の骨灰か
これも また
謎
謎
謎
ひとたび放たれたブーメランは
迷うことなく 喉元に帰ってくる
春風に乗って
再びの愚行
げに固く
戒めるべし



