さても 面妖なり

嬰児風 少女風 少男

 風 毘嵐婆

えいじふう しょうじょふう しょうだんふう

 おとこかぜ びらんばふう

 

 

かつて 「風の名前」なる本を

編もうと思い立ち 辞典積み上げ 

拾いにひろい 集めに蒐めて

五百有余を数えたところで 

風に煽られて 寝込んだ

藪殿…しれしれと曰く

まぁ 風当たりでございましょう ねぇ

 

紙幅に制約ありで 類似の名前を省き

迷いつつも 382の「風の名前」を 選んだ

冒頭に掲げた 「風の名前」は その一部だが

象形文字の有難さ 解説なしでも 

ご想像頂けようか

 

嬰児風」は 乳飲み子の柔毛を 吹くが如し

少女風」は あぁ雨の匂い 誘惑されてしまひますわ

少男風」は ちょいと右肩尖がって 降って来るぜよ

男風」は 高倉健さんよろしく 雨を孕んで

啖呵一節 斬と駆け抜ける

毘嵐婆風」は 婆ちゃんらしく ちと抹香臭い

この世の始まりと 末法の世極まる時に

き荒れる 破滅の大嵐の意

永田町向きか ねぇ

 

「風の道」を知る 第一人者と言えば 

鳥の族(うから)であろうか

彼らは その道を熟知していて 絶えず風に向かい

背を向けることはない

渡り鳥が 気の遠くなるような 奇跡の長飛行に 

果敢に挑むは 季節風という名の 

「風の道」の存在を 確信するが故の

一念なのだろう

 

p=雨女雪女

 

 

渡り鳥に誘われて 

Wikiさまに 「風鳥(ふうちょう)」と 尋ねたらば

なんと あるではないか

ニューギニアあたりに 生息するスズメ科の鳥族

大型で 稀に見る 光彩と美しい姿態を

持つことから 脚を切り 剥製となされて

西欧の貴族たちの賞翫の 憂き目に遭う

脚なくば 地に降り立つこと 叶わず

永遠の飛行なれば 「天国の鳥」と 呼ばれた

わが国には 江戸期オランダ人によって

将軍家に献上 以来 脚を持たぬこの剥製は

 「極楽鳥」と呼ばれ 珍重されたという

 

もしかしたば

「極楽」とは 「地獄」の異称

やもしれぬ

 

P=nom nom <極楽鳥花>

 

海に出て木枯らし帰るところなし

<昭和19年に詠まれた山口誓子の句>

 

詠者の心は 知らず 

木枯らしは海に入り帰路を見失う

ここで詠まれた 「木枯らし」とは 

単に風のことに あらず

片道切符の機上のひととなり 

散華した「特攻の若者たち」のことでは あるまいか

海底に転がる 虚ろな眼窩を 

風はひとときの 鎮魂の「巣」と なした

そう読めば 当たらずとも 遠くはあるまい

「巣」とは いのち生まれるところ

と同時に 

いのち果てるところ

でもある

 

 

<風童と極楽鳥>

 

しらとり哀しからずや

空の青海のあお染まずただよふ

 <明治期の漂泊の歌人 若山牧水の歌>

 

極楽鳥を抱いた 「風童」の木偶を 彫っていたらば

ふいとな

想い出した 牧水の実ることの 叶わなかった 恋の歌

「しらとり」とは 「君」 そして「我」

哀しからずや 「や」がある故に 反語

哀しくはないのか…

いやいや 哀しいのだ 耐え難く 

明治のひとの 無垢と含羞

 

人生は 「生老病死」だって さ

いやな渡世だなぁ

「諸行無常」という言葉にも似て

どこか恫喝めいて 好かぬ

試みに この「四語」を 数珠繋ぎにして見ると

その意味は 一変する

生老病死生老病死生老病死生老病死生老病死

なんと 一筋の河の流れ 

果てしなく続く道 ではないか

ひとは その永い河や道の 

今という「四語のパート」を

懸命に生きている

 

とは言え

 風に向かって

冬の河を降るも 雪道を辿るも

また

哀しからずや

 ん