千年を紐に貫ねて初鼓
静や静 鼓打つたび 偲ばるる
母御の聲か 連理の名残りか
吹く風に 散るは 山花ばかりなり
ゆかし 恨めし 懐かし
や
鎌倉を追われ 奥州平泉に落ちる「源義経」
別れに際し愛妾「静(しずか)」に
「銘・初音」の鼓一張に心を預け
形見となした
鼓とともに 吉野に逃れるゆく「静」を
付かず離れず 護衛に当たったのが
義経配下の武士「佐藤忠信」
実は彼は ひとに非ず
一匹の「童狐」の化身であった
<狐忠信>
「初鼓」に張られた皮こそは 「童狐」が
「母狐」の果てなり
義経恋し と「静」が 打てば
我が子恋し と 響きあり
故に「音」ならぬ
「鼓の聲」
と
紐一筋で世を渡る
妖怪楽器
あたしは「谷の井の蛙」だから 確信はない
が
「鼓」って楽器は 世界的に見ても
「奇妙な楽器の正横綱」では
なかろうか
だって さ
瓢箪の両端を切ったような 木彫りの「胴」と
円い鉄枠に皮を張り
これに穴六個開けて 一本の「紐(調べ緒)」を
順繰りに通し
皮枠を胴に固定し 縛りあげて 組み立てる
奇怪なシロモノだ
加えて
曲は単に 「音」だけで 構成されるのではなく
「間=闇・静寂」の もたらす働きが
曲全体の重要な「軸」となる
まさに「奇中の奇」
西欧楽器には まず見当たらない
「奇怪な楽器」の 最たるものと
言えよう
ピアノなら 素人でも
猫の気分で 四股踏んじゃった くらいは
拾えるというに
この御仁は タンポポは おろか
プッ!
御屁ひとつ 放たれませぬ
まさにこれ ジパングの
怪異
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妖怪の取説
まずは正座
左手にて妖怪の髪(調べ緒)を掴み
右肩に担ぎ 右手で打つ
髪を強く握れば音高く 緩めれば低い音…
音の諧調は
左手の握り一丁 回転寿司の「塩梅」次第で
決まるという
これぞ 曖昧の国の「曖昧の極致」
そうねぇ
靴すり減らしての「刑事の勘」
果ては「主婦の勘」あれよ
ね
当然「手附(楽譜)」もあるが まずは
御餓鬼の頃から
鼓枕になして一子相伝
ひたすらの ビシバッシの妖怪修験道
まさに
シンプルの闇 奥ふかき 底なし沼
あたしねぇ 好きなんです
究極のアナログ世界
デヂタル世界の「どっぷり温泉」なんか
畏れ多くて 恥ずかしくて よう入れませんの
なにせ
妖怪だから
ね
ああ
肝要なこと 忘れてた
鼓に張る皮は 「仔馬の皮」を用いる とある
されば
春風に 打つ鼓の 聲は
あはれ
母馬 恋し
とぞ
響
く
な
り
妖怪のレッスン


