赤蜻蛉

 

お盆は 年一度祖霊が 帰ってくる

長い戦争…沖縄 広島 長崎 そして敗戦 

混迷の状況経緯委細は 闇の中の闇だが

敗戦の日を あえてお盆の中日15日 とした裏には

おびただしい精霊への 後悔と鎮魂の思いを 

お盆へと収斂させずにはおれない

何かしら 恣意的な力が 強く働いた

ということやもしれぬ

 

精霊ラッシュ

この季節

我々の使う電磁波と精霊 空中衝突しないかと思うが

これは 非科学の科学と いうものだろう

死ねば「無」 精霊なんて…

と言ぅてしまえば それまでだが

そう単純なことでは 片付くまい

精霊=故人の記憶

と置き換えてみれば

また

別の光景が 見えてくるような気がする

 

 

お帰り

郷里では 精霊の乗り物は 「蝉」と「赤蜻蛉」と

決まっていた

涼しくなり始めた山から 群れをなして里へと

降りてくる赤蜻蛉

それがお盆の頃

 西日を浴びて 稲田の波に乱舞するさまは

まさに精霊 夢幻の景

 

 

祖父は盲目であったから「蝉派」 毎年広縁の中柱に寄り

13日の夕刻 耳をそばだて

庭の氏神さまの大杉に 

ひと際大きなクマゼミが「ジジッ」と

鳴いて止まると

それを戦死した我が息子 あたしの父の

「精霊の帰還」の

合図と 聴きなした

 

 

「赤蜻蛉童子」材肉桂/油彩着色/像高260粍/個人蔵

 

黄昏の色が 濃さを増すころ

祖母 母 兄が野良仕事を 終えて帰ってくる

祖母の手で 天井から吊るされた青竹に 

提灯が幾つも点されると

ある種不思議な 

安らぎが家中に

満ちる



盆に降る雨 お精霊雨

(おしょろあめ)

お盆の時期は 晴天が多いが 時々は雨が降る

その雨を お精霊雨(おしょろあめ)と呼んだ

雨もまたよし…

父の顔 姿を知らない あたしでも

おぼろげながら その面影を見るような

気分に なっちまう

 

 

すけじろさんて だぁれ

夕 小さなお膳に 季節のご馳走を 盆棚に供える

これは 祖母の役目

祖母は 広縁の隅に このお供えと同じ料理を

里芋の葉に 盛って置く

これは なんだぁ…

「すけじろさんも ひもじかろう おすそ分けじゃ」

すけじろさん…とは 帰る家のない精霊

つまり無縁仏である

このことを知ったのは ごく最近のこと

外精霊(ほかじょろ)が訛っての 「すけじろ」らしい

そうと知っても やはりひとの名前と聞きなした

祖母の優しさに 軍配をあげたくなる

ねぇ そうだよねぇ

すけじろさん

 

「お精霊雨童子」材ナギ/油彩着色/像高250粍/個人蔵

 

精霊故郷を目指す

盆の季節になると

いつも思う

たとえ故郷が 地上げによって 更地となり

面影も目印も 跡形もなくなっていた

としても

たとえ過疎で 山野と化したと

しても

決して

間違ぅても

九段坂」あたりを さ迷うことはあるまい

精霊

ひたすらに

故郷を目指して

飛ぶ