殿中でござるぞ
<あぁ わかっておる>
元禄14年 江戸城内松ノ廊下
赤穂藩主浅野内匠頭による 吉良少将への刃傷 続く仇討ちの経緯は
太平の世の「武士道の鑑」 もてはやされて300年…ちょいとアキタねぇ
語りつつ蛸も耳掻く師走かな
それでもねぇ 芝居小屋に 閑古鳥鳴くときは
やっぱ「仮名手本忠臣蔵」ですの
霊験あらたか 小屋たちまちにして三密大入り(今は禁句よ)となりぬれば
「独参湯(どくじんとう)」と 呼ばれけり
お薬が出たところで もうひとつ 実はこれが本命話
元禄三年「殿中腹痛事件」
福島・三春藩主秋田輝季公 にわかの腹痛にて 松も折れよとばかり 七転八倒
茶坊主うろたえる中 居合わせた富山藩主前田正甫公 臆せず騒がず
腰の印籠より 手製の「反魂丹」三粒を 取り出し 含ませた
しばらくして ピタリと収まり 一息ついた秋田公 いたく感激
「ありがとない ありがとない」
(福島弁でありがとうの意)
この事件は たちまち城内を駆け巡り 諸藩諸侯に伝わり
これを機に富山藩は 「諸国通行御免」を許され
かねてよりの念願であった 藩財政改革のための
売薬事業に進出を果たす
これが もうひとつの 元禄「商道の鑑」
正甫公が採った手法は 意外や意外 日本的発露か なんとも無謀大胆
せんよう 先用後利 こうり
先に商品をお預けいたしますれば 先ずはご自由にお使いくだされ
お代は後日にておかまいなし 商品の補充も併せ 伺いまする
町場はもとより 現金に乏しい 農漁村までを
全国カバーする 画期的な手法
年二回
薬の補充と集金 おみやげと娯楽情報の持参と
綿密な家族構成や持病など 閻魔さま顔負けの「顧客情報」の収集と更新
リピ-ト率99% まさに 顧客と売り手一体
津々浦々まで 歩く薬局 それが「富山の置き薬」の強みであった
が…
時代移れば 老舗と言うて あぐらはかけぬ
キヨシの逆襲も あるからなぁ
近年は富山グループ再編強化 製薬に軸足を置き ネット通販にシフト
なんと アフリカ諸国での 「置き薬構想」も浮上という 噂もあるらしい
<かつて、朝鮮、満洲、台湾、フィリピンなどまで「置き薬」進出の実績もあるが…>
さて この「先用後利」 いかがなるらん
旅は遥々 果てないとても…
向かい雀の紋に
「廣貫堂」の文字鮮やかに 染め抜いて
大きな風呂敷包みを 背負って 富山の薬売りが やってくる
何やら上機嫌 それもそのはず
あと二つ 集落を回れば 半年ぶり 富山への帰郷が叶う
商人宿暮らし 単身赴任も しばしお休みだから
家族の顔が 思い浮かんで るんるんスキップ
追分まで来ると
小僧がひとり 山羊と遊んでいる
薬売りを目ざとく見つけて 「おじちゃんコンニチハ」
薬売りは荷物の中の 貰った桃饅頭を思い出し
小僧にやった
初めて見る 手に余るほどの桃饅頭
アリガトナイ おじちゃん
嗚呼 汝もか
小僧の笑顔に釣られたな 薬売りの心に フィと蟲が入った
向こうの田んぼで 草取りに余念のない 小僧の両親を眺めながら
不覚にも 聞いてしもぅた
なぁ坊や 坊は父さんと母さん どっちが好きかなぁ
小僧は
山羊に相談でもするかのように しばし俯いていたが
いきなり貰った桃饅頭を 真っ二つに割ると
おじちゃん!
どっちが うまいか
さても よ
この勝負 小僧に軍配あり
子ども七歳までは神の裡
どうやらこの俚言 ただの迷信ではないようだ
な
子どもほど 神秘な存在はない
まさに不揃いの果実 ひとつとして 同じものはない
頭に小さな角のアンテナ 胸に「一生分の核種」を抱いて やってくるのだから
いびつでも 半欠けでも 完璧な宇宙なのだ
侮るなかれ
塵芥の海を 漕ぎ渡る智慧は 既にあの 小さなからだの裡に 備わっている
心いたされよ
見られているは おとなの 背中でございます
汚れっちまっちた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
<嘆くなかれ中也よ 汚れるを人生と呼ぶのだから>
夭折を果たせなかった 我は 如何にせん
唯々 恥に似た哀しみ 哀しみに似た 恥
どっちが うまいか
さぁて ねぇ
白頭掻けば さらに短く
すべて簪にたえざらんと欲す
<もはや冠無用にて>
かろうじて残るは
額の角の アンテナ
切れ切れに
漏れ
聴こえくる
唄
鉱石ラヂオの
懐かしき
聲
響
アンナ・カリーナさん お元気かしら…


