春灯よ闇の深さよ鬼唄よ
春の闇というものは
どこか掴み処がない
赤子のお尻のようでもあり
ぺかぺかの禿頭翁のようでもあり
香しい黒髪うねる 若者のようでもある
花の香りのようでもあり 獣の青い吐息のようでもある
井戸端の桶で たっぷりと春の水を飲んだ 稲の種籾が
ぴちぴちざわわ 目覚める聲
潮騒の遠い響き 波間に漂う海月の憂鬱
メダカの学校の鐘の音
ほら遅刻だよ
土筆の法師が おずおず頭を出せば
おお 待つてたぜ
ツクシ誰の子オスギの子 オスギ誰の子法師の子
悪童たちが囃し立てて唄う
いぢわるすなやぁ
闇の底
森の彼方 斧の音が聞こえる
もう方舟は懲りたけん 金輪際造らん
と申されたに
またぞろ ノアの伯父貴の悪癖 疼くのんか
目覚め 出逢い 別れ いざさらば てんこ盛り
懲りない深夜サーカス 爛漫花電車
春と言う名の 残酷な幕の内弁当
千年のリフレイン
わらわら
季節限定なのら
また来ん春と人は云う
しかし私は辛いのだ
春が来たって何になろ
あの子が返って来るじゃない
おもえば今年の五月には おまえを抱いて動物園
象を見せても猫にゃあといい 鳥を見せても猫だった
最後に見せた鹿だけは 角によっぽど惹かれてか
何とも云わず眺めてた
ほんにおまえもあの時は
此の世の光のただ中に
立って眺めていたっけが
<在りし日の歌>
詩人・中原中也1907-1937年の詩
二歳の愛息文也を失った 逆縁慟哭の呻き
光の中に立っていた子は 何処へ
ひとり河原で石を積む…
この詩に出逢ぅたは
十七歳の春
唐突に現れる 理不尽 という名の訪問者
あの傲岸な 人生劇場の座付き戯作者が
あたしに 思ひもかけぬ 配役を振った
母さんは アタシが代わる と泣いたが
人生劇場に 代役はおらん
母さんだって 戦争未亡人の役 やってるやないの
振られた配役は 泣いてもわめいても
受けるしかないのら
だからね
春が来たって何になろ
投げ遣りの呻き そのフレーズに出逢ったとき
ひりひりり 沁みたのれす
ひとは 頑張れ言ぅてくれたけど
ノラは辛かったのら
十五十六十七と あたしの人生暗かったぁ
そんな季節にはね
詩が唯一の ひ・か・り
無二の隠れ場なのら
詩は あれやこれやの詮索なし
ただ黙って 行間にね 匿ってくれるの
麦畑のように
逃避行 いいじゃぁないか 春の風
山桜のピックで月琴をホロリ弾いてみる…下手だねぇ
春宵一刻 直千金
しゅんしょういっこく あたいせんきん
花有清香 月有陰
はなにせいこうあり つきにかげあり
歌管楼台 聲細細
かかんろうだい こえさいさい
鞦韆院落 夜沈沈
しゅうせんいんらく よるちんちん
中國北宋の政治家・詩人…蘇軾1030~1101年の七言絶句 春夜
朝廷の中枢にあって志高し 故に左遷左遷の境遇であったいう
性は強靭且つしなやか 詩人・散文家・書家・画家
政の泥舟は 知性の櫂 で漕ぐべし
という事やろね
三月の木偶
春もまだ浅い越後の 谷奥の小さな社に
里神楽の次第を記した古文書がある
セ・ン・セ ヨ・ン・デ ク・レ・ロ
うぅ 読めないよぉ
紙魚どの永年の足跡 あちこちに 斑雪の如し
辛うじて
弓とは勿体なくも 月神に形取りたるものにして
握りより上は 天の二十七宿神
握りより下は 地の三十六宿神
引かば満月 引かざれば半月
折れたれば
闇夜なり
紙魚どののせいにして
雪の越後で
ひひ 冷汗をかいたのら
恥かき老馬の
旅路遥か
なり
<狩りの作法>
二兎を追わず 乙矢は持たず
材シナ/油彩着色/像高355粍/2028年東京展向け
笑童子 〉作品公式サイト
鍋倉孝二郎 WORKS / SHOP




