冬は虫 春は朧に 夏は草
ふゆはむし はるはおぼろに なつはくさ
冬虫夏草
とうちゅうかそう
子嚢菌類のキノコの種 土中の昆虫類に寄生して
菌糸によって地上に子実体を生ずる
漢方数千年の妙生薬 中華・薬膳料理の稀少素材
その名は聞いてはいたが
いざ御目にかかると 図鑑とはいえ
めめめ面妖なり
お主何者 よょ妖怪か
容貌的怪異 悪魔的妖艶
宇宙的深遠
「冬虫夏草図鑑」 家の光協会版
冬に地中の昆虫類を 宿主として選び寄生する
その養分で育ち 宿主が死ぬと葬式もせで
夏にキノコ状の店子となって 地上に出現 胞子を宿す
その生態
冬は虫の如く 夏に草繁るが如し
宿主として選ばれるのは 蛾 蝉 蟻 蜘蛛など様々…
店子の生態形状は 不思議と宿主を彷彿させる
稀に寄生先の宿主に対して 行動経路を指令する
ゾンビさながらの菌種もあるらし
まさに
軒を借りて母屋を盗んでしまふ
下剋上
予告も 打診も 根回しも 痕跡も 皆無
当然ながら 宿帳も賃貸契約書もない
舞台は広葉樹林や郊外住宅地裏山などの昆虫生息地
意外とオレオレの お隣さんや
神出鬼没 くノ一なのら
怪人草
赤い鳥小鳥 なぜなぜ赤い
赤い実を食べた…
北原白秋さんの詩
国語の時間が終わると 中庭に整列
いつもは陽気な名物用務員 鬼塚の小母さんが
割烹着白頭巾の恰好で 魔女よろしく神妙
露地の竈に火を焚いて 大鍋をしつらえ
沸々 何やら煮ている
怪人草…いやさ海人草 虫下しや
海藻を煮た褐色の液体を 湯呑一杯ずつ
鼻をつまんで飲むのら
悪童たちの
春と秋の厳かな儀式
翌朝の悪童たちは 何故か口数が少ない
さもありなん
こともあろうに 我が身の裡に
得体の知れぬ者が 潜み棲むという衝撃
三寸ほどの目鼻も分かたぬ回虫は
七つ八つばかりの子童が 初めて遭遇する
命という名の怪異混沌
謎 神秘 不可思議
理・不・尽
大袈裟よのぅ
白い鳥小鳥 なぜなぜ白い
白い実を食べた
ノラは覚えがないのら
<P=旅するししゃも>
千年の仮託
逢い見ての後の思ひにくらぶれば
昔はほんに鼻風船
や
行き暮れて木の下蔭を宿とせば花や今宵の主ならまし
源平の戦で壇ノ浦に果てた平忠度さんの辞世
冬虫夏草を知って 読み直してみれば
さて 宿主は誰ぁれ
はい 桜の花が宿主で 忠度さんが店子
いや もしかしたば
忠度さんが宿主で 桜の花が店子
心奪われたは忠度さん 桜の花に喰われてしもぅた
のら
仮託という名の
ゾンビ的蘇り 千年のフーガの技法
おとろしや
月盗り 材科/油彩着色/像高360粍
木偶の宿帳
この世は仮の宿 期間限定の寄宿舎や
時が来たらば 舟は出てゆく 煙は残る
寄居虫ヤドカリだよ 人生は
されば宿帳には 冬虫夏草とでも書きませう
なぜならば 木偶彫る吾も似たような者や
親の宿借り この世に生まれ
遺伝子もろともに 両手に余る因果の盾矛たてほこ
あれや これや それや
思ひますれば
芸術的才能などと云うもの なべて幻想にて
あれも これも それも
みんなレンタル
先人諸氏からの預かりもの 貸借の歴史や
気の遠くなるような 永い連鎖ゆえに
世に完璧無双の創造の術は是無く
ことごとく 幼子のモノ真似に興ずる無心の歓声
その木霊 そのソナチネの響き
なのら
僅かにその面影を懐かしむ老馬の春
ふたたびの北原白秋さんの詩
薔薇ノ木ニ
薔薇ノ花咲ク
ナニゴトノ 不思議ナケレド
冬虫夏草図鑑
清水大典著/カラー版/A4/446頁
日本国内で確認された冬虫夏草338種 著者自身の細密画と解説で編む
家の光協会/1997年刊/ISBN4-259-53866-7 C0645 ¥ 8000+税



