六月の薔薇
庭先に置いてある鉢植えの薔薇、
五月で一旦花は終わったのだが、
六月、枝分かれした赤茶けた茎が、
ぐんぐんと伸びて来て、
てっぺんにつぼみがひとつできたと思いきや、
日ごとにまた新たな芽を出してきて、
終いには、つぼみは六個になった。
そして、茎の色が、赤茶色から緑色に変わると、
ひとつまたひとつとつぼみが膨らみはじめ、
やがて見事に花開いた。
いったいどこに、そんな力が潜んでいるのか、
皆目わからないが、
この薔薇、かれこれ十年以上は見て来ているが、
これほどの開花ラッシュは、初めてのことである。
それはともかくとして、
私は、毎日せっせと水をやりながら、
まるで恋人を愛でるように、
毎日見惚れていたのである。
その真紅の薔薇つけて、唐突に思い出したことがある。
もうずいぶんと前のことだが、
たしか大阪に出張した時のことだったと思うが、
客先での打合せを終え、地下鉄に乗り、梅田に向かっていた時、
私と反対側の席に、スーツ、ネクタイ姿の、
サラリーマンと思しき青年が、ひとり腰かけていた。
手には、夥しい数の真紅の薔薇の花束を抱えていた。
それは、衆目を集め、かなり目立つ光景である。
周囲から好奇の眼差しが注がれているのを、
意識してか、青年は俯いたまま目を閉じている。
おそらく、もしかすると、これから、彼にとって、
その後の人生の行方を大きく左右する、
一大イベントが待ち受けているのではないか、
そんな想像を頭の中で膨らませながら、
私は、その青年に遠くから、
エールを送りながら眺めていた。
それは、
格段取り立てて記憶するほどのことでもない、
何気ない光景ではあるのだが、
なぜか、私の脳裏深く刻み込まれている。
思うにそれは、そのことが、
私の中で、あるひとつの「微笑ましい光景」として
映ったからではなかろうか、そう私は思うのである。
薔薇の花束が放つ無言のメッセージは、
どんな言葉よりも強く、
人の心に突き刺さるもののようである。
百万本のバラ/加藤登紀子
この小説「もうひとつの明日」は、1998年5月9日、同人誌『座礁』に発表したものの再掲載です。
過去にアップした小説
短編小説 恋文~往信 朗読版
短編小説 恋文~返書 朗読版
古くからの友人、高木早苗さんが、松江市観光大使を務める京太郎さんと、
ご当地松江を舞台にしたデュエットソング、
『さよならだんだんまた明日』をリリースされました。
とても素敵な歌ですので、是非聴いてあげて下さい。
不肖私めの撮影した写真も少しだけ入れてありますので、よろしくです。
「だんだん」は、出雲地方独特の方言で、ありがとうの意です。
振袖の振付方を詳しく解説した写真講座を公開しましたので、
興味のある方はご覧下さい。
写真集の制作に興味のある方は、こちらを参考にしてみて下さい。












