明日、10年近く一緒に働いた同僚が退職する。
前の職場からの同僚である。
彼女が前の職場に入ってきたのは、彼女が16歳の時。
私を採用してくれた先代のマネージャーが、彼女を採用した。

接客業に全く不向きな静かすぎる彼女をみたとき、私は「いじめ」を経験した子だなと思った。
当時のマネージャーに「あの子、接客業大丈夫ですかね…」と言った事がある。
スタッフとも最低限の会話しかしない彼女は、明らかに同世代を避けている感じもあったし、食事会やクリスマスパーティーにも絶対に来なかった。

マネージャーは私に「間違いなく接客業に向いてない。恐らく、相当このバイトが彼女にはチャレンジになるだろうと分かってる。わかった上で、チャンスをあげたかった。ここであの子を採用せんかったら、私は後悔する。あの子が変わるチャンスをあげたい。だから、あんたも理解して欲しい」と言った。
私は察した。
人間不信になった経緯があったのだろうと。
しかし、自分から変わろうとして、あえて苦手な仕事をしに来た。
それを受け止めたマネージャーと、彼女を助けようと決めたのは10年前。

自信の無さが滲み出て、性悪女の客が彼女を何度言葉で傷付けたことか…
一人、2人ではない。
彼女だから言うのである。
その度に、マネージャーは客と喧嘩もした。
私も泣きながら裏に来た彼女に変わり、喧嘩上等で客に話しをしに行く事が何度もあった。
しかし、そういう客は私のような肝の座った顔つきと年代、雰囲気を持つスタッフには絡まない。

少しづつ、少しづつ強くなって行った。
しかし、今も姉妹店のマネージャーの意地悪に耐えられず泣く時がある。
いじめっ子気質の女は、彼女みたいなタイプに語気を強めて楽しむ。
それでも2年頑張った。

姉妹店に勤務する彼女と、この2年何度も休憩を共にした。
段ボールを敷いて倉庫で弁当を食べた。
2年前から、初めて彼女から別れ際にハグされるようになった。
「いつも私を笑わせてくれて有難とう」だったり、「本当にいつも裏切らずにいてくれて有難とう」だったり。

彼女の母親が異常なまでに彼女をコントロールし、過干渉だったことから、彼女は上手く友達との付き合いができなかった。
友達が家に来ることも、遊びに行く事も、クリスマスパーティーに行くことも許されなかった。
仲間外れ、変わり者呼ばわり…そうして人付き合いを諦めながらも、苦しんだ末に接客業に応募した。

ハグは欧米人なら誰彼すると思いがちであるが、人間不信で生きてきた人にとってのハグは、歳月を共にし、よほど打ち解けた相手にだけ出来るようになるのだと、私も20年イギリスに住んで分かった事である。
だから彼女が弁当の後に職場に戻るときに、私に求めてくるハグは、彼女には軽い挨拶程度ではなく、信頼の証なのだと分かる。
これも彼女から学んだ事。

新しい職場は弁護士事務所の事務。
人と関わる仕事は、彼女にとってのチャレンジ。
あの時、マネージャーに言われた言葉を私は忘れず常に彼女の理解者でありたいと思う。
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