私がまだ日本に住んでいた頃の事。
ある時、TVのニュースを観ていたら、第二次世界大戦時にソ連に行き、そのまま終戦を迎え、日本に戻る機会のないまま現地人と結婚した、元日本軍人の方が取り上げられていた。

ロシア人と結婚し、その間に生まれた息子さんが付き添って、終戦後初めて日本に戻ってきて、日本の親族を感動の対面を果たしている場面であった。

お姉さんなのか、妹さんなのか、泣きながら抱き合うシーンがTVに映っていた。
私がなぜ、このニュースを覚えているかというと、感動の再会よりも気になったことがあったからであった。

それは、この元日本軍人の方に、通訳が付いていた事である。
この御老人は、今はもうロシア語しか話せず、日本の家族と会話するには、通訳を介して会話する必要があった。

私は思わずTVに向かって「へ~日本人なのに、日本語忘れるんや・・・」と1人言を言ったのを覚えている。

20歳前後まで日本に住み、それから半世紀以上もの間、日本語を使う環境がなかったのなら、生まれ育った言葉であっても忘れてしまうのか・・と非常に興味深かったのである。

私はその時、もし自分が今から永久に英語だけを話し続け、書く事もなくなれば、日本語を忘れてしまうかな?と考えたが、私に限ってはあり得ないと思った。

数ヶ月前、ある日本人女性に出会った。
彼女は高校まで日本で過ごし、それから16年イギリスに住んでいる。
「日本語で話す時は、考えてしまう」と言う彼女に最初は半信半疑であったが、話してみると、なるほど日本語の色んな言葉を忘れてしまっているのである。

ほとんど日本には帰国もしておらず、日本の友達とも交流を持っていないから、日本語を話すとか、書くという機会が少なかったせいもあるかもしれない。

私からすれば、「英語の方がラク」などと余裕をこいて言うてみたい言葉であるが、まあそれは私に限って不可能であろうと思う。

20年近く母国語として話していた言葉であっても、それ以上の年数が経つと、その言葉も忘れてしまうという事を、最近、目の当たりに知った出来事でした。