高校生のころ、家の近くにあるレストランでバイトをしていたことがある。
そこには当時、店の看板娘の西川さんという女子大生がいた。
西川さんは顔も美人で、どんな客にも笑顔で対応できる人であった。

店の近くには、大手電気メーカーの本社があったので、昼も夜もそこの社員がよく来ていた。
夜など、仕事を終えたサラリーマンが部下を連れ、うちのレストランに来ていたが、酒が入るとオッサンは若い女と話したいデス顔満々で、チラチラとこちらを見ては、何かを言いたげにする。

注文を聞きに行ったり、空いた皿を下げに行く度、オッサンは何かを言おうとする。
ムシズが走るオッサンギャグは、「コーヒー頂戴。ミルクは母乳で!」と言うオッサン。

私はコレにニコリともしたことがなく、無表情で「かしこまりました」と言うだけ。
しかし西川さんは、笑顔で対応していたから、凄いと思っていた。

私はどちらかというと、ひたすらキャベツを切ったり、米を洗ったりするので良かった。
だから、途中から厨房に入ることになり、西川さんが休みの日だけ、嫌々ながらホールに立っていた。

オッサンがしょーもないギャグを言う時は、直前、必ずこちらの顔を伺う。コレ共通。
なので、伺ってきたら、しなくても良いのに注文を繰り返してみたりして、オッサンの第一声をさえぎり、スタスタ戻っていく術を身につけた。

そうして数十年が経過。
最近、またこのオッサンに悩まされている。

嫁とデパートに買い物に来るオッサン、特に服を見に来るオッサンほど、ヒマなものはない。
従って、嫁が試着している間、オッサンにすればそこにいる嫁より若いスタッフが、格好の話意相手となる。

しかしながら、私は心が狭いのと、オッサンのギャグが英語で理解できないのと、どうせ大してオモロイ事言うてないであろう必要性の無さから、聞いていない振りをしたいのである。

しかし、服を整理しているだけでは、オッサンは話しかけてくるから、最近、ニセの帳簿を作った。
中には意味不明の数字を書き込んでおき、オッサンがチラチラ見始め、半笑いで何か言おうとした瞬間、このニセ帳簿&電卓を取り出し、必死の顔で計算する振りをする術である。

周囲のスタッフからすれば、「何をそんなに計算することがあろうか・・」と思われているであろう。
田舎デパートで、1日に何枚も服が売れるワケもなく、ニセ計算帳簿は役立つのである。